【花宮真が誘拐されました。】

誘拐：26 ページ31

見つけたはいいが、Aが同じ空間にいる時に本を調べたりするようなことがあれば、あの女はすぐに不審に思うだろう。


だから夕飯の支度でもなんでも、Aがこの部屋に居ない、かつ暫く戻っては来ない時にもう一度本を手に取る。






Aは、鋭い。決して油断ならない。






そう認めてこその判断だった。








本を棚から引き出すと、やはりあの時と同じように、ことりと中で音がする。

見た目は普通、開けば中には空洞。

まるで何かを隠すために創られた、秘密の宝箱のような。





そうまでして「この本をこの場所に隠した誰か」が渡したかった物とは、果たして小さめのプラスドライバーと小袋を纏められた数錠の錠剤である。


プラスドライバーは、何に使うかは大体予想がついた。

ただ、錠剤が何に使えるのかはわからない。そもそもどんな効能があるかわからないのだ。

ただの睡眠薬かもしれないし、麻薬、果ては死に至るような毒薬だという可能性もある。薬ってのは、えてしてそういう正体不明の危険なもんだ。






この人物が俺や他の誰かを助ける気があってこんなことをやっているのだとしたら、説明書があってもいいはず。

そう思って本をあれこれ調べてみる。






「……あった」






表紙と本体の間に、また手紙だ。













【私は以前ここに閉じ込められた者だ。もしこれを読んでいる貴方が一刻を争うような事態であった時のため、詳しい事情は割愛する。

このドライバーと薬は部屋を出入りする男から失敬したものだ。薬は睡眠薬だ。遠慮なく使ってくれ。貴方の無事を心から願う。】







手紙を書いたのは、やはり前の手紙を書いた人物と同じであったようだ。

そして多分、こっちの方が先に書かれたものだろう。
こちらを先に見つけるだろうと思って書いたつもりが、俺は机の足に隠した方を先に見つけてしまった。それはこの人物の誤算だったわけだが、まぁ、どちらにせよ発見できたのだからいいだろう。








……と、繰り返し読んでいるうちに、下の方に小さく追記があることに気付いた。






そこにあったのは、この人物の、切なる願い。
叶わないことはわかっていても、少しでも可能性があればと書き残したメッセージ。




俺とAの関係を大きく変えることになるある事実に、俺は目を見張った。

追う者［６］→←誘拐：25

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す