誘拐：28 ページ34
その日の昼間、Aは居なかった。
これは俺には好都合だ。
脱出に必要な下準備ができるし、意思が揺らぐこともないだろう。
準備が終われば、ひたすら本を読む。
文字の羅列で頭を埋めて。
余計なことを考えないために。
「らしくねぇ、よなぁ……」
なんて、独りごちてみたりして。
そんなことをしていると驚くほど早く時間は過ぎて、
そうしてまた夜がきた。
Aがまた飯を運んでくる。
それもこれで最後かと思うと、感慨深いものがあるような、ないような。
『何ボーッとしてんのよ。』
ピッ
「あッッッつ！
テメェやりやがったな！？」
『食事中はお静かにお願いしまーす』
ピッ
「あづッ！やめろ汁飛ばすなッ！」
ない！感慨もクソもあったもんじゃなかった！
箸の先で熱湯の味噌汁を飛ばしてくる。
お盆で防御しながら他の惣菜に手を伸ばす。
そんな非常にくだらねぇ攻防戦をしていると、ふと風が吹いてきた。
夏にふさわしく少し湿り気を含んだ風。
全開になっている窓から入って、カーテンを揺らしていく。
Aが立ち上がり窓に近付いた。
『今日は涼しいわね。』
「ん……あぁ。」
『せっかくの満月の夜なのに、曇りだわ。残念よね』
「満月だろーが晴れていよーが、その鉄格子が雰囲気ぶち壊してんだろ」
『風情があっていいじゃない』
「テメェは風情の意味をGoogle先生に聞いてこいよ」
そんな物騒な風情いらないから。
『うるさいわね、このチンピラ風情が』
「チンピラは死語だろ。その風情は意味が違う……あーもうこの話やめようぜ。ゲシュタルト崩壊してきた。」
『同感。』
その後は、月も星すらも出ていない曇天を見上げながら、Aが持ってきた雪見大福を２人で食べた。
正直甘いものは好きじゃないが、最後くらいいいか、なんて。
そう、ここまでの数日通りなら、Aは食器を片付けに降りればもうこの部屋には来ないから。
まぁ１度夜這い(？)に来た時はあったが、Aは同じ嫌がらせはしないタイプらしい。
どっかの誰かさんが言ってた、ジャンケンには違う手を出し続ける、みたいな。
だから、順調に行けばAとは今この時間で最後。
別に何とも思わない。
感情には蓋をした。
俺は振り向きもせず、ただAが出ていく音を聞いていた。
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Mae(プロフ) - かぼちゃポンタさん» コメントありがとうございます!!メインの２人以外にも結構時間を割いているので、そんな風に黒子の活躍(？)を見ていただけて嬉しいです笑。レス遅くなってすみませんでした！ (2016年8月30日 16時) (
レス) id: 56d5d2ac75 (このIDを非表示/違反報告)
かぼちゃポンタ(プロフ) - 黒子の締めで笑いました、はい！2見てきます！！ (2016年7月26日 14時) (レス) id: b325383cfb (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - スピカ@しののんとmarvelousへの旅さん» 伏線ともいえない伏線もどきは一応張っていたのですが、やっぱりわかりにくかったですよね……すいません！黒子のほかにも謎はたくさん残してあるので、また推理しながら楽しんでいただけたなら幸いです。コメントありがとうございます！！ (2016年3月30日 20時) (レス) id: 56d5d2ac75 (このIDを非表示/違反報告)
スピカ@しののんとmarvelousへの旅(プロフ) - まさかの、手伝いが、黒子だったとは、、、 驚きのあまり、十秒間口にポカーンてなってました笑 今まで分からなかったところがわかって、すっきりはしたけど、続きを読むのが楽しみです。 本当黒子とか思いませんでした (2016年3月30日 18時) (レス) id: 5f4212bb8d (このIDを非表示/違反報告)
Mae(プロフ) - 狐サマさん» 長いこと引っ張ってきた伏線がやっと表に出たので、私自身もホッとしてます笑。花宮はいい意味で期待を裏切ってくれる存在だと思ってるので、読者様に対してもそう在れたのなら幸いです。コメントありがとうございます！ (2016年1月28日 22時) (レス) id: 56d5d2ac75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：Mae | 作成日時：2015年5月12日 22時
