【花宮真が誘拐されました。２】

誘拐：53 ページ11

｢俺がAに同情して初めから茶番に付き合ってたって？
わざわざ気付いていない風を装ってか？

お前、試合であんだけされて俺がそんなヤサシー人間に見えるのかよ。｣


｢…………。｣


黒子は不服そうだ。俺は愉快。
探偵気取って披露した割に俺を性善説で語るところが馬鹿。
全くもって何もわかっちゃいないんだよ、お前。




｢教えてやるから黙って聞いてろよ。



まず、俺は父親が起こした事件の被害は殆ど受けてない。

元の家族3人で住んでいたマンションからは引っ越してた上に、中学上がって周りの人間もがらっと変わってたからな。

だがニュースで事件と逮捕者の名前を聞いて、できる限り調べた。
実の父親の名前が流れてきたんだ、俺も素直に気になった。
恐らくAの名前もそん時知った筈だ。


それで……実際に4日前、あの部屋でAと会って。


Aの顔を見て、名前を聞いても、俺は何も思い出さなかった。
あの時点で俺の記憶にAに関するものは全く無かった。｣



｢……は、………思い出さなかった？

どういうことですか？
事件が起きた時に調べて、Aさんのことは知っていたんですよね、？｣


怪訝な顔つきでこちらを見る黒子。
お前みたいな凡人には分かりようもないだろう。


｢言葉通りだよ。
思い出さなかった、すっかり、綺麗さっぱり忘れてたんだ。

ついでに言えばお前やウチの連中に聞くまでAにも誠治っつう名前にもまるでぴんと来なかったよ。
俺はそいつらを知っていることを忘れてたんだ｣



｢……意味が……わかりません。
知っていることを、忘れた？

Aさんのことだけでなく、父親の、名前まで？

なんで……、どうして忘れていたんですか？｣



｢忘れたかったから。だから忘れた。

それだけだろ｣


別に事故とかによる記憶喪失じゃない。
いや、むしろ言葉通りの｢記憶喪失｣と言えるのか。

何せ俺は"意図的に"、記憶の喪失を引き起こしたのだから。

誘拐：54→←誘拐：52

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す