54、決意(真咲視点) ページ7
｢世子様は不安なんですよね｣
｢え…？｣
｢あれ程、強かった花嬪様が亡くなってしまって、
そっくりな私が窮地に立たされている。
また同じことが起きるのではないか
恐れていらっしゃるのですよね｣
彼女は俺の心をすべて見透かしているかのように
言葉を続けた。
｢大丈夫です。
私は花嬪様のように黙って去りません。
私は世子嬪であって、花嬪ではない。
そして私はこの王宮で唯一、
王様の女ではなく世子様の女です。
世子様が望まないのであれば
私は世子様の元を一人で去ったりしません｣
初めて、彼女の真面目な表情を見たかもしれない。
真っ直ぐと俺を見ている。
そのとき、初めて、なんの隔たりもなく、
真っ直ぐと彼女を見つめることができた。
�爐△ �彼女は本当に唯一無二の存在なんだ。
他の誰でもない、織なんだ。
ちゃんと、彼女自身を見ていなかった。
見ているつもりだっただけで
俺は、ずっと、彼女自身に触れていなかった。
彼女の言うように、建前だけの夫婦だった。
近づこうと努力していると
俺が勝手に思い込んでいただけで
俺は彼女に手を伸ばそうともしていなかった。
どれだけ俺は情けないのだろう。
咲のときみたいに
相手に甘えるばかりで
自分は何もできていない。
変わる、変わると言いながら
何の努力もできていなかった。
彼女に対して心を開こうともしていなかった。
それでも彼女は
俺のために尽くそうとしてくれている。
まだ十六なのに、ありったけの知恵を使って、
観察力を使って、誰に何を言うべきか
ちゃんと理解して、行動している。
思ったことを口走っているんじゃない。
ちゃんと状況を見て、発言してる。
彼女に甘えてばかりじゃ、だめだ。
こんなんじゃ、たった一人であっても
大切な人を守れない。
このままじゃ、だめだ。
彼女の手を引いて歩けるような男にならなければ。
｢世子様？｣
この笑顔を絶対に、守り抜いてみせる。
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