【ヒプマイ】月が満ちる時に。2

story94 ページ49

『一郎、三郎は何も悪くないの。

私が三郎が口止めしたの。

…今更言うのもなんだけど自分からちゃんと言いたくて』


一郎｢…そうだったんだな、｣



空気が重くなって柔らかい沈黙が走る。

許して欲しい、なんて言うのは我儘かな。

友達でいたい、なんて言ったらダメかな？

気持ちが、水溜まりの雫みたいに波紋を作っていった。

side:二郎＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿

Aが、おん…な？

おんなってあの｢女｣だよな？

あのAが？

ただ女装が趣味とかじゃなくて？

…何言ってんだ俺はバカか。んなわけねーだろ。






だけど、…Aが、女で……




良かった…！！！！！！


最近、マジでAといるとドキドキして、俺はそっち方向に進んじまったのかと心配したんだぞ！


ああ、一安心だぜ。


それより何より腹立つのは三郎だ。


Aが女だって知ってた？

ふっざけんなよ！ならなんで早く言わねぇんだ！

自分だけの秘密ってか？

…畜生、悔しいな…



『二郎も、ごめんね？隠してて』


｢…っぇ？…べ、別に俺は…｣


『そっか、』



申し訳なそうに、悲しそうに、下を向くAを見て体が勝手に動いた。



｢俺は別に怒ってねぇから！

むしろ嬉しいし！！！｣


『…え？』



俺はAの右腕を掴んでつい本心を叫んでしまった。

俺の言葉に吃驚したのかAは俺を見てぽかーんとしている。


やっべぇ…

嬉しいって…嬉しいってなんだよバカ…！

手の力を抜き、というよりひとりでに力が抜け、
今度は俺が恥ずかしさで床を見つめる。

こんなところで本心を言っちまってどうすんだよ…

にぃちゃんも三郎もいるのに…


『ほんとに？ほんとに？二郎、怒ってないの！？』


｢え、お、おう…｣


『…良かった…』



…なっ……

なんだ、これ…


心臓が、拍動が…どんどん早くなって、血が体中を巡る。

Aの、安心したような不意な笑顔に息が止まる。


A。


虚城A。

性別は女。


俺より年上で、よく笑う。

綺麗な、｢女｣


俺はこいつのことをもっと知りたい。

もっと話したい。

ただ、そう思った。






この時の俺はまだ、Aへのこの気持ちの名前を知らない。

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