天高く (ページ10)

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秋の空⑨ ページ10

「何もあるわけないか」

　店長はクククと笑いながらオレたちを見る。

「店長、悪い顔してますよ。」

　店長はさらに口角を引き上げる。

「ま、お前らに何かあってもいいけどな」

　目の前にいるのは悪魔だろうか。

「どれにするか決めたら連絡するけど、
　どれになってもいいように心算しといてな」

　オレよりちょっとだけでかい悪魔は、

　微妙な空気を作って事務所を出て行った。

　

　
　資料を片付けて、ロッカールームへ戻る。

　店長の発言の後、
　オレは藤ヶ谷の顔を見ていない。

　後ろを歩く藤ヶ谷がどんな表情なのか
　気にならないわけじゃないけど。

　

　藤ヶ谷？
　
　後ろに気配を感じなくなって振り返る。

　と同時に足先に鈍い痛み。

　
　スタッフの誰かのであろう大きなリュックの金具が足の小指にクリーンヒットしていた。

「…てっ…誰、だよ…」

　こんなとこにこんなでっかい荷物置いたやつ‼︎

　ロッカーに手をついて痛みを堪える。

「北山？」

　ロッカールームに入ってきた藤ヶ谷が驚いたような顔でこっちを見ている。

　そのままこちらへ向かって来た。

「北山…」

　藤ヶ谷がもう一度オレを呼ぶ。

「……どうして」

　
　何が、どうして？

　藤ヶ谷の手が頬に触れたかと思うと、親指がそっと目元を拭った。