秋の空11 ページ12
小指の痛みを堪えていたところを
藤ヶ谷に立たされた。
そして。
オレ in 藤ヶ谷の腕の中。
え?
「ごめん」
藤ヶ谷が謝っている。
この荷物、藤ヶ谷だったのか?
でなきゃ話の筋が通らないよな。
だからって、なんでハグまでされてんの?
よくわからなくなって名前を呼んだけれど、
藤ヶ谷には聞こえなかったらしい。
「藤ヶ谷」
とりあえず、ハグから逃れた。
「もう大丈夫だから」
顔を上げると、
藤ヶ谷がせつなげにオレを見ている。
「ありがと。心配してくれて」
もう、痛くないよ。小指。
「…小指?」
「うん。ぶつけたとこ」
オレはチラとぶつけた足先を見る。
「北山、足ぶつけたの?」
うん、とオレは頷く。
少し驚いたかと思ったら、
藤ヶ谷はフフフと笑い始めた。
「足、ぶつけたって…」
フフフがハハハに変わる。
「何だよ。
ぶつけたら泣きたいほど痛えんだぞ」
足の小指!
「ごめ…でも、アハハハ…オレてっきり…」
藤ヶ谷が目元を拭う。
「足の指で良かったわ」
散々笑われて、足の指で良かったとはどーゆーコト?
すげー痛かったんだぞ。
さすがのオレもおこだよ。
「ワリ。足、大丈夫か?」
笑いが収まったのか、
ゆっくり息を吐いてからオレに問う。
「ぶつけただけだから」
「ケガがなくてよかった」
藤ヶ谷がオレの髪に触れる。
ふと藤ヶ谷の香りが鼻をくすぐった。
今まで何度となく嗅いだ香なのに、
今日はこの香りが記憶を呼び起こす。
あの時のアレは
どういう意味だったんだろう。
「なあ」
「あのさ」
同時に口を開いて、同時に閉ざす。
「あ、何?」
「え、あ、うん」
また、タイミングが合ってしまった。
なかなかのシンクロ率。
目が合うと急に気恥ずかしくなる。
「北山、何?」
オレは、ずっと気になっていたことを
藤ヶ谷に聞いてみることにした。
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作者名:lettuce | 作成日時:2022年9月3日 23時