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心。
精神。
そう、結局、そういった種類の問題は、誰にも相談することのできない、理解者がいない種類の問題は、肉体よりも精神の方に深く、鎖を、あるいは楔を、打ち込むものなのかもしれなかった__ともすれば。
言うなれば私が、平気になったとはいえ、それでも朝、カーテンの隙間から差し込んでくる日の光が、未だに怖いのと、同じように__だ。
私の知ってる範囲ではもう一人、私と相川が籍を置いているクラスの委員長、天宮翔太が、同じように歌詞さんの世話になっているけれど__彼の場合は、期間は私よりも更に短く数日ほどで、しかも、その間の記憶を失っている。
そういう意味においては、一番幸運な立ち位置と言うこともできるだろう。もっとも、天宮の場合、そういう意味において語りでもしない限り、全く。救われることはないのだけれど__
「この辺り」
「は?」
「この辺りだったんだよ。僕の住んでいた家」
「家って__」
相川の指差した方向を、言われるがまま見るけれど、そこにあるのは、ただの__
「……道じゃん」
「道だね」
立派な道路だった。アスファルトの色が、まだ新しい__最近舗装されたばかりというような有様である。ということは、つまり__
「宅地開発って奴?」
「区画整理だね。どちらかと言うと」
「知ってたの?」
「知らなかったよ」
「だったらもっと驚いたみたいな顔しなよ」
「僕、あまり感情が顔に出ないんだよ」
確かに、眉一つ動いていなかった。
しかし__なかなか視線を移さず、その方向、その場所を見続けている相川のその態度からは、あるいは、確かに、彼の内面で行き場をなくしている、そんな頼りない感情を、読み取ろうと思えば、読み取れるかもしれなかった。
「本当に__すっかり変わっちゃったよ。たかだか一年足らずだというのに、なんてことだろう」
「………………」
「つまらないの」
折角来たのに。
そう呟いた。
本当につまらなさそうに。
ともあれ、これで、相川が今日、新しい服の慣らしとやらと並んで、この辺りにまでやってきた大きな目的の一つは、これで果たされてしまったということなのだろう。
振り向く。
浦田渉は、私の脚に隠れるようにしたまま、そんな相川のことを窺っていた。
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名無し16825号(プロフ) - ありがとうございます!これからも楽しみに待たせていただきます! (2020年3月28日 9時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
灰猫(プロフ) - 名無し16825号さんコメントありがとうございます!そう言っていただけてとても光栄です!この二人が付き合うかどうか等も今後の更新で分かりますので、ゆっくりですが今後も気長に更新を待っていただけると嬉しいです! (2020年3月28日 5時) (レス) id: 06fe930ba8 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - ところでこの二人付き合うんでしょうか?(( (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
名無し16825号(プロフ) - すごく続きが気になります!面白かったです更新頑張ってください! (2020年3月27日 22時) (レス) id: 8fbf982787 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:灰猫 | 作成日時:2020年3月26日 1時