感情 ページ20
「……ごめんなさい」
自分でも訳がわからないうちに、謝っていた。それでも莉犬さんは失望の色に染まった目を、私に向け続ける。先輩はなにも言わずに、私の隣でことの成り行きを傍観している。
こういうときどうすればいいかなんて、どういう人とどういう関係を築くべきかなんて、教科書には載っていなかった。先生も教えてくれなかった。
逆にどういう人が欠陥人間で、どういう人が最低なのかも、授業では習わなかった。でもわかる。人間としての欠陥ばかりのできそこないは、私だ。
毎日雑に過ごして、『約束』なんかにこだわって、その結果中身が空っぽになった関係性にいつまでもすがりついて、ちゃんと自分のことを見てくれる莉犬さんのことも裏切って。
俯いたその時、ぐいっと手を引かれた。
「すみません、Aちゃん借りて行きます」
怒っているようで、感情の読めない硬い声だった。そのまま引きずられるようにして、椅子から引き剥がされる。青柳先輩が「そっか」と呟く声が聞こえた気がした。
彼が走るスピードに置いて行かれないように必死で足を動かしながら、私は莉犬さんの横顔を盗み見る。莉犬さんはやはり感情の読めない表情をしながら、ただ廊下の先を見つめて、一心不乱に走っていた。
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ネコ日和。 - んんん…続きが気になる。更新がんばってください(๑•̀ㅂ•́)و✧ (2022年8月28日 14時) (レス) @page25 id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - 姫鞠さん» まさか一気読みしてくださる方が現れるとは…! ありがとうございます! 更新頑張ります!! (2020年8月20日 8時) (レス) id: d3d4d4d9f7 (このIDを非表示/違反報告)
姫鞠(プロフ) - お話がすごくタイプというか、とても好きです……そしてひとつひとつの描写が丁寧で素敵です。相乗効果でつい一気読みしてしまいました。続きがとても楽しみです……!!応援しています……!!! (2020年8月19日 20時) (レス) id: 4acd05b78d (このIDを非表示/違反報告)
紬(プロフ) - みかささん» うわあありがとうございます! 優しい読者さんに恵まれて作者は幸せです… 色々ポンコツな私ですが最後まで見ていただけると嬉しいです! (2020年8月19日 7時) (レス) id: c54b6c4345 (このIDを非表示/違反報告)
みかさ(プロフ) - 全然大丈夫です!作者さんも頑張ってください (2020年8月18日 20時) (レス) id: d74848b20e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紬 | 作成日時:2020年8月12日 9時