鎖を解いて、その手を伸ばして

33＊不安要素 ページ33

　といっても、ただ喋っているだけではない。

　名目上は、勉強会だ。
　学年末テストまではまだ三週間あるけど、沙穂が通っている塾のテストがもうすぐだから。


　私は塾に行っていないから詳しいことは分からない。
　でも、沙穂はテストの結果によってクラス分けが行われると言っていた。
　そりゃあ、出来るなら誰でも落ちたくないよね。

　周りからの評価、自分自身の気持ち。
　いろいろな理由がある。


「そうそう。そしたら、この三角形とこの三角形が合同って分かるでしょ？」
「あ、ここが平行だからか」
「そういうこと」


　沙穂はこちらの説明をしっかり聴いてくれるからやりやすい。
　本人が飲み込みが遅いと言っているけど、そんなことないと思う。
　気持ちの問題でもあるのかな。


　出来るって信じれば出来る。
　出来ないって諦めると出来ない。


　そんな単純な問題だとは思わないけれど、きっと少しは気持ちも関わってる。




「Aせんせー、私もここ教えてー」
「はいはい」


　璃愛のふざけた口調に、笑いながら応える。

　彼女が指差している問題は、彼女が苦手そうなところだった。
　これはゆっくりやった方が得策だな。


　基本的なところから、丁寧に。
　友達に教えるときにはそれを心掛けている。
　

　私にはつい堅苦しい言葉を使ってしまう癖があるらしい。
　
　咄嗟に噛み砕いた言葉に直すのも苦手。


　そりゃあクラスの誰も理解出来ない言葉は使わない、というか知らない。
　難しめの言葉だってクラスの何人かは必ず理解してくれる。


　でも頭いいですアピール、だと思われてるかも。
　そんな気は更々ないし、アピール出来るほど崇高な頭脳は持ってない。


　他人がどう思うかは自由。
　私に止める権利はない。
　だから不安になる。


　璃愛や沙穂にはそう思われたくないな、って。

　願うけど思うのは璃愛たちの自由だから。


　これも不安要素のひとつ。

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