鎖を解いて、その手を伸ばして

11＊忘れ物捜索中 ページ11

「こんにちはー」
「A、やっほー！ 雪ちゃん先輩来てくれてるよ！」
「えっ、久し振りだね！ 今日部活長めだからかな」


　思ったより人数は揃っていなくて、拍子抜けした。
　今日のホームルームは他のクラスよりだいぶ早く終わっていたらしい。
　そんな中でいつもの挨拶に元気良く応えてくれたのは心凪(ここな)。
　サイドテールが大人っぽい、お洒落な子だ。
　私も含めてみんなここちゃんと呼んでいる。
　今のところ先輩と彼女しか来ていないみたいだ。

　──ところで先輩の姿が見えないのは何故だろう。


「雪ちゃん先輩よく来てくれるよね。でも今さ、教室に忘れ物取りにいくって行っちゃったの」


　そういうことか。
　理由が忘れ物ってところがいかにも雪ちゃん先輩らしい。
　文化祭が終わって部活を引退する前から雪ちゃん先輩はそんな感じだった。
　課題を期限までに提出出来なくて、しょっちゅう居残りで勉強。
　でも部活行けないよ、と言われると途端に目の色が変わるくらい、部活が大好きで。
　明るくて、いつも笑顔で。
　私にもよく話し掛けてくれた。
　なんだか懐かしいな。


「A来てくれて良かったよ、みんなまだ来ないし。雪ちゃん先輩来てくれたーって喜んでたら慌てていなくなっちゃうし」
「忘れ物探すのに手間取ってないといいね」
「うーん、整頓苦手って言ってたからなあ」


　ここちゃんは雪ちゃん先輩と家が近いから、部活がある日は一緒に帰っていた。
　多分そのときに聞いたことだろう。
　整頓苦手、か……。
　イメージ通りではある。
　教科書やワークをなくして焦っている姿が容易く想像出来るほど。


「先輩、もうすぐ受験だけど大丈夫なのかな」
「あー……分かんない。でも雪ちゃん先輩なら息抜きだよーとか言いそうじゃない？ っていうより実際帰るときよく言ってたよ。漫画もゲームもぜーんぶ息抜き」
「確かに、否定は出来ないかも」


　思わずくすくす笑ってしまった。
　先輩は全然、全く変わっていない。
　おせっかいだと分かっていても心配になっちゃうよ。

　雪ちゃん先輩、部活が終わるまでには忘れ物見つけられたらいいんだけど……

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