猫かぶりの裏の顔4【奈良坂透】

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｢私、その人のことを友人とか、知り合い以上に好きになれなくて。でもその人は私にすごく優しくて、私にも今以上を期待しているんです。
その期待に応えるのが正しいとは思うんですが…｣

世の中良い人もいれば悪い人もいる。
理想の人と付き合える人もいれば、そうでも無い人と付き合う人もいる。

愛し愛される関係じゃなくても、結婚する。
そういった人は一体どれくらいの好きなら傍に置くのだろう。

｢今の中学生って皆そないに大人びてるん？｣

首を傾げ考える人のポーズをする。

｢え、いや。そんなことは｣

これは例の作家から得た知識だ。その手の知識だけが積もり見た目に反して突っ走った突貫。
当然心身が持ちきれなくてこう悩んでいる。

イコさんは真顔のままだが今にも娘を持つ親のように涙ぐむ。

｢学生の恋愛なんてもっと自由に我儘でええやん！その時間は本人のもので誰かのためとちゃうで。
恋は盲目ゆーとるけど、執着するだけやない。初めてのことにどうすればええねんって迷子になるのも盲目になっとる証や。｣

なんだかすごく深い話を聞かされている。
この人実は物凄く頭がいいじゃないだろうか。あるいは本をよく読んでいるのか、はたまた想像力が豊富なのか。

｢ええか、これから俺がハッキリさせたるから｣

｢は、はい！｣

腕を組み横で仁王立ちをする。私も真剣にイコさんを見上げた。


｢これから俺とキスとかイチャイチャします。｣

今度はどんな話を？と期待した顔のままピシッと固まる。とてもじゃないが想像できない。それだけこの人を相手にする可能性はゼロということだ。

｢嫌？｣

｢…すみません｣

変に申し訳なくなり、できる限り口角を上げて目を逸らし謝る。

｢1ミリも動かんくて泣ける。まぁこれで大丈夫言われたらそれはそれで心配すんねんけど。
じゃあ今度はさっきの好きにならんっちゅうやつは？｣

私は少し想像してみた。
そしてすぐに首を何度も横に振る。

｢アカン？｣

｢多分、まだ断るかと｣

唇を指でなぞる。

キスをあの人と。ただお昼を食べたり一緒に帰るだけなら問題ないのに。

これは恐らく、明確な恋人との男女の行為だからだろう。過剰な触れ合いをシチュエーションに自分と誰かを置く。そうするだけで例の作家の小説の中のような、つい隠れてても読み進めたくなるくらい甘い物語にはなれない。

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