【文スト 】お父さんの馬鹿

幸せだなぁ ページ28

｢お父さん……｣









｢こんな私をまだ父だと慕ってくれるのかい？｣









視界がぼやけ、目から温かい涙が流れる









精一杯頭を縦にふる









｢お父さん、｣









｢うん｣









｢お父さん、お父さんっ…｣









何度も呼ぶ私に父は丁寧に返答してくれる









ぼろぼろと流れる大粒の涙は止まらない









｢私、頑張ったよね?｣









拷 問された時のことを思い出す









｢あぁ｣









嗚咽を漏らしながらも一生懸命話す









｢痛かったの、苦しかったのっ。私は、私はただーーー｣









｢よく、頑張ったね｣









そう









その言葉が欲しかっただけなの。









あぁ、なんて幸せなのだろう









名を呼ばれ、褒めてもらって、抱きしめてもらって。









ーーーーまして、父の腕の中で死 ねるなんて。









｢げほっ｣









手にはべったりと赤い血がついている









ひゅーひゅーと喉からの息が五月蝿い









｢A!?｣









原因は簡単









傷の手当をまともにしてこなかったから









傷が化膿した。それだけのこと







傷口から大量の細菌が入って、血液がそれを運ぶ事によって




臓器に異常をきたすんだって








この間、太宰さんから借りた本に載ってた






最悪死にいたるとは聞いたことがあるけど









まさかその最悪になるとは。









お父さんが医者に何かを言っている









ぎゅっと抱きしめたまま









痛いよ、お父さん。









そんなに強く抱きしめなくたって大丈夫だよ？









もう、思い残す事はないかなぁ









｢駄目だ、A!君まで逝 くな!!｣









あぁ、でも一つだけ









｢おと、さ…私、おとーさんと…お出かけ、したかった…な｣









｢あぁ、しよう。これから毎日でも！だから頼む…逝 かないでおくれ｣









泣かないでよ、お父さん。









そう云おうとした私の口からはひゅ、という虚しい音しか出てこなかった









父が私の名を呼ぶ









そんな幸せな状況下、私は意識を失った

お願いだから→←温かい

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す