秘密の会合 ページ29
少し薄暗い室内に灯るのは、橙色の明かり。そこは、大通りから一本外れた路地の地下にある。カラン、とひとつ席を空けた場所に置いてあるグラス内の氷が揺れた。それの後を追うように手元にあるグラスの氷も揺れる。
『いつもので』
ここに来たのは数年ぶりだ。別にマスターを困らせたいから言ったのではなく、ただ単純にあの頃を懐かしみたかったから。そんな事を杞憂だと思わせるように「かしこまりました」とマスターは返事をする。膝の上には一匹の猫。そっと頭を撫でると、嬉しいのか撫でた手を追いかけるように頭を動かす。誰かが階段を降りて来ている音が聞こえる、が、途中で止まった。息を飲む音まで聞こえそうな静寂が訪れるのをかき消すように、烏が一言。
『久しぶり、安吾』
数年ぶりに会う安吾は、とくに変わった所は無かった。強いていうなら、眉間のシワが増えたくらいだ。
安「…ヨコハマから、姿を消したと聞いてはいました」
『あぁ消した。そして帰ってきた』
沈黙。安吾から生唾を飲む音が聞こえたような気がした。トントン、と自分の左側を叩く。その合図を理解したのか、安吾はAの隣へと腰を下ろした。「トマトジュースを」と注文する安吾の顔をまじまじと眺める。
安「……僕の顔、そんなに変ですか?」
『うんそうだな。特務課の顔をしてる』
安「!…Aさん。僕は、貴方に謝らなけれ『よせよ』…」
『何故なら、安吾がポートマフィアに来た時から、自分はお前が特務課のエージェントだって知ってたんだ』
安吾の目が見開く。あの太宰でも例の事件が起きるまでは気付いていなかったのに。
『太宰はまだお前に対して腑に落ちない事があると思うけど…もう、憎むべき相手はこの世にいないし、何より命を賭して戦った織田作に失礼だ』
安「!…やっばり、貴方はスゴイ人だ」
その会話の切れ目がいい具合にトマトジュース、そして生クリームたっぷりのパンケーキが運ばれてきた。どうやらそんじょ数年ぐらいの記憶を掘り起こすのは、マスターにとって朝飯前らしい。Aはウヰスキー、安吾はトマトジュースを手に持つ。
『何に乾杯する?』
安「…おかえりなさい、Aさん」
『!…ん、ただいま安吾』
お互いのグラスが傾きぶつかる。それを見届けるように、ひとつ席の空いた所にあるウヰスキーの氷がカラン、と音を立てた。
安「そういえば、働き口はもう決めてるんですか?」
『ん〜…実は…』
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なに - 読みやすくて3作品夢中に読んじゃいました!すごく続きが読みたいです!一年前の作品ですがよければかいていただきたい!!! (1月1日 23時) (レス) @page34 id: 609d62ddb9 (このIDを非表示/違反報告)
三斗(トリップ願望者) - ぇ…終わっちゃったんですか・・・?続きかければ書いてください!絶対読みます‼ (2022年7月11日 22時) (レス) @page35 id: 9ad11557a3 (このIDを非表示/違反報告)
Rio - 無理はなさらずがんばってください!! (2022年3月7日 22時) (レス) @page35 id: 663ca84b4d (このIDを非表示/違反報告)
甘党 - 頑張って下さい!!更新待ってます (2022年1月22日 13時) (レス) @page35 id: 577366e2a2 (このIDを非表示/違反報告)
あの - 更新頑張って下さい!応援してます! (2022年1月7日 19時) (レス) @page35 id: 347eae7089 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まっぽ | 作成日時:2018年1月8日 23時