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「ねぇ、ソロモン」
「ん?」
リゾットを口に運ぶのをやめ、私はソロモンに問いかけた。
そうすればソロモンもスプーンを置いて、私に視線をあげる。
「ソロモンは、どうしてあんな怪我をしていたの?
あれは尋常な怪我じゃなかったわ」
「…………戦争、だよ」
途端に苦々しい顔になったソロモン。 あぁ、胸が痛い。
この子にこんな顔はさせたくないのに。
それでも、聞いておかなければならない。
最初は話してくれなかったこの子が口を開いたのだ。
今聞いて、私が守らなくてどうする。
そう胸の中で自分に喝をいれ、情けなくふるえる拳をただただ強く握り締めた。
「く、わしく。教えて」
絞り出した声は結局、震えてしまっていた。
情けない。
◇
静まり返った部屋の中。まるでタイミングを見計らったかのようにたんたんと何か軽いものをぶつけたような音がし始めた。
それはただんだんと強く、激しくなっていき、最終的にはその音しか聞こえなくなった。
雨音だけが、部屋に響き続ける。
空気が、水蒸気が、体中に纏わりつく。まるで見えない大きな何かに捕らわれ、じわじわと首を締め付けられているような、そんな感じ。
息苦しい。
この前まで心地よさすら感じていたこの沈黙が、突き刺さって痛い。
それは目の前で俯き表情の見えない彼も例外では無いらしい。彼の周りの黒い小鳥たちが居心地が悪そうにピィピィと鳴いて、彼の周りをくるりくるりと周り続けているのだから。
ここまで空気が淀んでしまう。それほどに彼の話には重みと、同じくらいの悲しみがあった。
彼は今まで、どれほどに苦しい生活を送って来ていたかだなんて、私には想像がつかない。
確かに、彼の周りには友が、そして、同じ志を掲げる同士がいた。
それでも、本当の意味で彼を理解している人間などいないのだ。
それは、彼が持つ圧倒的な力のせいであり、また彼自身、弱みを他に見せないよう努めてきたせいでもあった。
そうやって、彼は沈んでいく。
殺したくもなかった者共の血でできた底なし沼に、ずふずぶと。
誰にも解ってもらえず、誰にも助けを求めることもできずに。
この、一途で純粋な青年が。肩書きと圧倒的な力に挟まれて、沈んでしまう。
そんなことには、させない。
私は、いっそう強く拳を握り込んだ。悔しさか、切なさか。どちらかなんて分からなかったが、ただ、胸が痛かった。
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アリサ(プロフ) - 彩星さん» で、できるかぎり更新していきます! (2014年10月29日 19時) (レス) id: 956d2a8dca (このIDを非表示/違反報告)
彩星 - だって面白い作品だからつい興奮してしまって、頑張ってください!毎日確認します! (2014年10月24日 23時) (レス) id: 0e7062ca6e (このIDを非表示/違反報告)
アリサ(プロフ) - 彩星さん» そ、そう言っていただけると、とても励みになります! (2014年10月21日 19時) (レス) id: 956d2a8dca (このIDを非表示/違反報告)
彩星 - やべー、続き気になります! (2014年10月16日 0時) (レス) id: 0e7062ca6e (このIDを非表示/違反報告)
アリサ(プロフ) - 憐(紅の瞳)さん» 頑張りたいと思います……! (2014年10月5日 10時) (レス) id: 956d2a8dca (このIDを非表示/違反報告)
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