Necromance95 ページ45
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____それから、数日。
町外れの、小さな病院に…太宰は赴いて居た。
「……やぁ、翔」
ガラガラと音を立てて扉を開け、静かに閉める。藤崎が眠る寝台の横に丸椅子を置いて、そこに腰掛けた。白い寝台。白い服を身に纏う桜髪の男。
ただ静かに眠っていた。意識も何も無い、植物の様に。
「…翔が、アイザ君を救いに行ってから…三ヶ月。アイザ君は無事に目覚めた。安心して。猫のオサム君は社長が預かってくれてる」
それに対する返事は勿論無い。返って来るのは、呼吸だけ。太宰は顔を歪めたが、それでも無理に笑顔を保ち続けた。
もう桜髪の彼の、腹立たしい位にへらへらした顔も、見れないから。せめて、自分だけは何時も通りに。ここで悲しみでもすれば、それこそ藤崎の思う壷の様で…悔しいから。
「アイザ君は元気さ。君の云った通り、アイザ君が記憶の全てを
と、太宰は懐中から折り畳んだ冊の頁を取り出す。それは厚くて、枚数は四頁程。小さな英字で、裏表ぎっしりと書かれて居た。
それはアイザックの記憶。アイザックにとってはその冊だけが、唯一記憶を留めておく事が出来るものだった。
太宰はその一部の頁を破ったのだ。藤崎の望み通りに。
「彼、達筆過ぎてちょっと読むの難があったなあ…。読み聞かせてあげるよ、えっとね…」
それから…何も聞こえない藤崎に、全ての文を読んで聞かせた。誰も聞いちゃ居ない。ただの自己満足。それだけだ。
過去の下らないこと、夢の中、精神世界で救ってくれた事、『絶対に彼奴を救い出す』と書かれていたり、桜髪と云う特徴を掴んで、『桜髪の男に会う』『会ってお礼を云う』。など…大事な事が書かれていた。
本当に、そんな頁を破って善かったのか。藤崎は「俺に関する全ての頁を破って欲しい」。そう云って居た。それが俺の目的だから…頼む、と。
「本当に…莫迦だと思うよ、君」
俯く太宰。その顔は黒い蓬髪で隠れ、どんな表情をして居るかは見て取れなかった。ただそれ以降は黙って、目覚める事の無い藤崎を見詰めて居た。
鬱陶しくて、煙たく思っていた。けれども何処か、言葉では云い表せない程…。
いざとなれば、ぽっかりと穴が空いた様に。切なくて。然し太宰が、その感情を表には出す事は無かった。
「…ありがとう。…おやすみ、翔」
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何処かの誰かのノート
彼奴を必ず救う。絶対に。
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ekakisitemasu(プロフ) - 1番最後の何処かの誰かのノートの彼奴を必ず救う。絶対に。で大号泣しました、、、、 (2022年10月21日 23時) (レス) @page50 id: 583e2155f1 (このIDを非表示/違反報告)
愛(プロフ) - 天才 (2022年4月29日 13時) (レス) @page50 id: 1cfd8c976c (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - ファイさん» ありがとうございます…!笑って泣けるような作品にしたくて書いておりました!こちらこそ埋もれていたであろうこの作品を見つけてくれてありがとうございます、とても嬉しいかぎりです…!!!本当にありがとうございました! (2021年11月27日 0時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
ファイ - アッ……ヤバイ エッ俺の心臓無事?大丈夫?あ、好き 主様本当にこんな素晴らしい作品を書いてくださり有難う御座います大好きです応援してます大好きです。 最初見たとき大号泣してしまいました。 本当にこんな素晴らしい作品を書いてくださり有難う御座います神! (2021年11月16日 18時) (レス) @page50 id: 1f415ed449 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 白鳥さん» あわわ、ありがとうございます.......!是非に!!!!私も白鳥さんのような方に出会えて嬉しさの極みでございます…ありがとうございます.......!!! (2021年4月30日 17時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
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