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表情こそ変わらないが、おろおろとして居る少年。北森が自分の血を差し出すと云う想定外の出来事に驚きを隠せない様だった。
北森は床に落ちている硝子の破片を拾って、自分の左腕を軽く傷付けた。傷口から鮮血が滲み出る。
「ほら」
太宰に傷が付く位なら、これ位如何って事無い。北森の傷は与謝野が治せるが、太宰は治せない。
人間の生き血を見た吸血鬼。少年の薔薇色の瞳は揺れ、瞳孔が開く。静かに呼吸を荒げた少年。がしりと北森の手首を少年が掴んだ。
____来る。
あの長くて鋭い犬歯に噛まれればきっと痛い。北森はぎゅっと
目を瞑った。
「……じぶんを傷つけるのは、よくない」
何時まで経っても痛みがやって来ないと思えば、少年は説教
じみた様子で北森に云ったのだ。強い少年だ。本能に、自身の異能に打ち勝つ精神があった。
「…は」
「わるいことだ。すきじゃない」
ぱっ、と北森の手首を離し、ビリッと音を立てて黒い円套を破いた。それを北森の左腕に巻き付けて、きゅっと結ぶ。
「今度やったらげんこつだ。わかったか」
柔らかい口調で云うと、少年は踵を返して壁側に向かった。すると薔薇色の瘴気が、少年の周りを覆い始める。
少年が壁の前で立ち止まる。少年の足下にある床が、ばきりと割れては潰れた。
「ねぇ、レイ君。絶対足りて無い。飲まないで如何する心算?」
「下がっていろ」
ぶわ、と周りの空気が少年の創り出す薔薇色の瘴気に呑まれ、少年の周囲で小規模な竜巻の様な現象が起こる。
暴走の兆候。過度な血の渇望による限界突破。
少年の円套と、純白の髪がふわりと逆立つ。
「治くん」
「判って居るよ」
太宰と北森は、自然と少年と距離を取る。
少年がぐっ、と拳を握る。一歩前に踏み込む。踏み込んだ地面が潰れて抉れる。表現する事が出来ない程の壮絶な音がした。暴風が太宰と北森を襲う。二人は距離を取って反対側の壁に居たので無事だ。
風が収まり、少年の方を見る。少年は平然と立っていた。その向こうに、きらきらと輝く青い海が見えた。
朝陽が差して、海を照らして居た。吸血鬼が陽を嫌うと云うのは本当だが、砂になると云うのは映画製作の為に作られた迷信だ。
「海…きれいだな」
誰にも聞こえない声で、少年は呟く。
少年は霧になって姿を消した。
「…有難う、レイ君」
太宰の礼が、少年に聞こえる事は無かった。
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【要】注意異能力者
北森鴻:十九歳。身長167cm、体重52kg。性格、異能力共に危険性があると判明。条件が揃えば、接触せずとも相手を手に掛ける事が可能な異能を持つ。
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抹茶ラテ - ふと見つけて読んでみたら凄く面白くてなかなか長文物を読まない私でも気づいたら完結の所まで!!会話文や文構成が上手で途中感動でついうるッと来てしまう場面もありました、、!このような素晴らしい小説を書いて下さりありがとうございます!!! (2022年12月23日 21時) (レス) @page50 id: c4a8adec94 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 九十九天斗さん» 久しぶりにここにきました!それ故に返信遅れてごめんなさい、見つけて下さりありがとうございます!!!!!面白いといっていただけて何よりです!! (2021年12月31日 2時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
九十九天斗(プロフ) - たまたま見つけて面白すぎてここまで読み進めてしまいました…!連載中に知りたかった… (2021年11月27日 0時) (レス) id: a6414a60a8 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 永衣さん» お返事が遅くなり申し訳ありません!!ハワ…嬉しいですありがとうございます…作品を書いていて本当に良かったです!! (2021年10月14日 3時) (レス) @page46 id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
永衣(プロフ) - 連載していたころから読んでました。ふとした時に読みたくなって戻ってきます、いつ見ても最高です!本当にありがとうございます! (2021年9月13日 11時) (レス) id: d90c12946e (このIDを非表示/違反報告)
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