第九十ニ舞『スピットファイア』 ページ42
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『あぁ…そこを左です』
アイザックは、右耳から聞こえるドストエフスキーの声を頼りに、異能兵器の精密な内部を全力で駆ける。
『そんなに走ると、後が持たないのでは?』
「煩い…!早くしねぇと…!」
銀色のピアスから、ドストエフスキーが小さく溜め息を吐いたのが判った。
『では、最短の距離を教えます。三つ目の角を曲がった所です』
ドストエフスキーが云うと、アイザックは更に加速する。心臓が張り裂ける位には体力を使って居る。
「何でも善いから全部最短距離で教えろよ!」
三つ目の角を曲がってアイザックが叫ぶと、アイザックの身体は宙に浮いた。床に穴が空いたのだ。
真下は灼熱。溶解炉だった。
『すみません、言い忘れました。罠です』
「あんたなぁ…!!」
咄嗟にアイザックは腿にある拳銃…いや、これは国木田の鉄線銃だった。
役に立つと、国木田が密かにアイザックに持たせてくれたものだ。
煌めく鉄線を真上に放ち、アイザックは弧を描く様にして溶解炉に落ちるのを防いだ。
『凄いですね』
パチパチと通信の向こうで手を叩くドストエフスキー。
アイザックは少し苛立ちを見せる。
「あんた俺で遊ぶな!で、何処だ!」
『その溶解炉の周りです。何処かに小さい排気口がありませんか』
灼熱の溶解炉の所為で汗がだくだくになる。
鉄線にぶら下がりながら周りを見渡すと、確かに小さな排気口があった。
「ある。けど、小さすぎじゃねえか」
『大丈夫です。貴方は貴方が思っている以上に小柄で細身ですので』
アイザックは口角を引き攣らせ、激怒しそうなその心境を必死に抑えた。
すると、鉄線を利用してブランコの様に身を揺らし始めた。
「今だけは…俺の身長を褒めてやるよ!」
鉄線銃を離し、アイザックは反動で排気口まで飛ぶ。
勢い良く排気口に入り、ズザザ、と背中から音を鳴らし、狭くて暗い排気口を滑った。
『その排気口を抜ければ、一つ目の起動解除装置があります。全部で二つです』
狭くて暗い視界が急に晴れた。眩しくて、一瞬目を眩ませた。
目が眩んだアイザックは、地面に身を転げた。体勢を立て直して、素早く顔を上げる。
目前に広がったのは、真っ赤な水晶。いや、氷…と云うべきだろうか。
『聞こえますか。アイザック君。それを壊して下さい』
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第九十三舞『レクイエム』→←第九十一舞『デウスエクスマキナ』
要注意異能力者____内務省異能特務課より。
アイザック・バシェヴィス・シンガー:身長 169cm、体重 53kg。横浜のゴロツキ。非好戦的だが、気が短い。民間人に危害を加えた事例は無いが、我々は監視を続ける必要がある。
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χCielχ(プロフ) - やっさんさん» ありがとうございます!アイザックはしかも望んでない体質ですからね…!!実はこの異能兵器、考案した奴はシンガーじゃないんですよ…さて誰でしょう…??((激辛カレーは五分五分ですかね!!!?? (2019年10月1日 19時) (レス) id: 6fa1655de3 (このIDを非表示/違反報告)
やっさん(プロフ) - アイザック編を、読み切りました。アイザックさんも、厄介な体質ですね汗。とんでもな異能兵器の発動で、冷や汗でしたが、なんで良かったです。余談、激辛カレー勝負の行方や、いかに!?(笑)。二人とも、口から火を吹くか!??。(笑) (2019年9月28日 20時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - リアさん» ありがとうございました!カレーは…そうですね、二人とも1口目でギブしてそうです笑笑 (2019年7月16日 21時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
リア(プロフ) - カレーの勝敗気になりますwwとても面白かったです!(^^) (2019年7月4日 0時) (レス) id: f94faaa2fc (このIDを非表示/違反報告)
χCielχ(プロフ) - 翠柘榴さん» わーー!!ありがとうございます!見てくださったんですね…!!おっふ短気ゴリラアイザックがお世話になりました…((ひえええ勿体ないお言葉です、ありがとうございました!!!! (2019年5月23日 0時) (レス) id: 7ff5a81624 (このIDを非表示/違反報告)
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