Thirty-fourth. ページ35
____なんて、冷たいのだろう。
____一体この行為に、何の意味があるというのだろう。
深くなるそれは、私の呼吸を奪うというのに。
酷く冷たい感触だった。
哀しみばかりが募った。
なのに込み上げるのは、どうしようもなく名前の無い感情だ。
傷つける、なんて余りにも弱い。
彼のそれは、確かに私に消えない傷を残した。
涙が出る程、胸が詰まる傷みだ。
このまま呼吸が止まってもいいと思えるような、甘美な毒だ。
「この苦しみを受け入れられるか?____A」
身体から力が抜ける。
壁を伝うように膝から崩れ落ちた私を逃がさないというように、閉じ込めて、また呼吸を奪って。
懇願のようだった。
拒めと主張するほど荒々しく、拒まないでくれと縋るように甘い。
恐怖心なんて不思議と沸かないのだ。
もう思考も限界なのだ。
蒸気する頬も、濡れる唇も、全部、全身が求めていた。
痛々しい程に、それは純粋な好意だ。
自然に流れた涙に含まれるのは、一体どんな感情なのだろう?
____『手前ェはもう俺のいないところで泣くな』
「〜〜〜ッ!!離してッ!!」
私は穢れていた。
こんな綺麗な感情を、受け入れられないから。
それは優しく私を包み、温かく守る。
なのに私は、それを____受け入れられない。
涙が止まらなかった。私も、彼も。
何かが変わってしまうことを覚悟しなくてはいけない、でも、そんな事できない。
私は貪欲だった。
それがどれほど彼を苦しめ、痛めつけるかを知っていながら、手放せない。
だからただ泣いていた。
何も言わず、声も漏らさず、ただ泣いていた。
____立ち上がった彼の顔さえも見ずに。
「ごめんな………ッ」
小さな声だった。
か細く擦れた声だった。
走り去る足音に消されてしまいそうな、そんな声。
「ごめんなさい………立原……ッ」
呼び止めてあげたい__だけどできない。
抱きしめ返したい__だけどできない。
名前を呼んで、呼ばれて、笑い合う日々が私を救うのに。
彼が、立原道造が、私には必要なのに。
「A、様……?」
肩に触れた温もりが貴方じゃない事が
こんなにも辛いことを伝えたいのに。
深さ3センチの熱が、甘く胸に広がった。
私は、分からなくなってしまった。
彼への愛が、彼の人への愛が、何なのか。
高鳴ってしまった胸の熱さの意味が。
____恋、とは……なんて恐ろしいの…
手に落ちた涙が、熱かった。
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一華 顕音(プロフ) - GALAXYさん» コメントありがとうございます!番外編が完成しましたので、良ければ呼んでください! (2016年8月10日 21時) (レス) id: f13dd29270 (このIDを非表示/違反報告)
あっぷるぱい猫系女子 - 此奴等が可愛すぎて大声上げて発狂しそうです (2016年8月6日 20時) (レス) id: 26e00e8d74 (このIDを非表示/違反報告)
華京院アリス - お久しぶりです。立原がいいぐあいに出てきますね!夢小説であんまり出てこないので新鮮です。あと、中也がだんだん惹かれていく感じがまたたまりません!改めて中也好きだなと思いました。文ストのなかで一番いい話ですよ!これからも更新頑張ってください!待ってます (2016年8月1日 15時) (レス) id: 0f9149ddd8 (このIDを非表示/違反報告)
蘭 - あぁぁぁぁぁぁぉぁあ!(歓喜)どっちも応援したい! (2016年8月1日 10時) (レス) id: 53c8339ac2 (このIDを非表示/違反報告)
ひよこリュナ(プロフ) - ああああ(((立原君に頑張ってほしいけど…やっぱへたれちゃんな中也君に頑張ってほしいです!!!! (2016年8月1日 9時) (レス) id: eef97769f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:一華 顕音 | 作成日時:2016年7月10日 23時