I wanna be a hero.

twenty - nine ページ31

彩ｓｉｄｅ

相川さんに歌い手にならないかと誘われた。

こんなチャンス、二度とないかもしれない。

でも。

『無理、です・・・・。』

相川さんは、目を見開いた。

「・・・どうして？やりたくないの・・・？」

その泣きそうな声に、思わず声を上げた。

『違う！・・・・違います。』

やりたくないわけじゃない。

だって、一度は夢だった。

いや、今でも夢なんだから。

目の前にいるこの人のように、ヒーローになることが。

歌で人を魅了し、励まし、癒やすことが。

でも、できないんだ。

帰る場所もお金もない。

才能も何もない私に、何ができるという？

「違うなら、どうして、なの？」

『さっきも言いました。私だって、歌で誰かの励みに、癒やしになりたい。
でも、私には帰る場所もお金も、才能だって無い。自分の問題を解決する勇気もないんです。』

お母さんに立ち向かう勇気だけでも、あればよかったのに。

私には、そんな勇気も、気力すらもない。

いや、以前は持っていたのかもしれない。

でも今はもう、何も持っていないんだ。

すると、相川さんは少し笑って言った。

「彩ちゃんには、才能もあるし、勇気だってあるよ。
だって、一度は抗ったんだから。僕だったらそんな事もできずに、逃げ出してるよ。」

否定しようとする私を止め、相川さんはさらに続ける。

「それにね、今までは独りだったから、誰にも話せなかったから、
きっと、辛くて、弱くなっちゃってたんだと思う。」

「でもね、今は違うよ。＿＿＿＿＿＿＿＿僕がいるから。」

『え・・・・？』

私は目を見開いた。

相川さんは微笑んで続ける。

「彩ちゃんには僕がいる。だから、一緒に戦おう？
だめだったら、僕が慰めてあげる。そして、もう一度、挑戦するんだ。

何度でも、何度でも、だめだったら僕のところにおいで。だめじゃなくてもね？
僕は彩ちゃんの力になるし、味方だよ。」

頬に熱いものが伝るのを感じる。

同時に、胸のあたりが熱くなって、苦しくなった。

ふわりと笑う相川さんは、とても眩しい。

暖かいけれど直視できない、そんな光に包まれているように見える。

『いいんですか・・・？何度やってもだめかもしれない。
私が折れてしまうかもしれないのに。』

「いいよ。だって、彩ちゃんはきっと、負けないから。
そうじゃなかったら、今ここにいないよ。」

その時。

ずっと雲掛かっていた心が、すっと晴れていくのを感じた。

「もう一度言うね。、、、、歌い手になりませんか？」

視界がぼやけていくなか、私は精一杯の笑顔で答えた。


『はい・・・・！』

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