7話 ページ8
「……ここは」
僕は目を覚ました。
すると、見慣れない天井と目が合った。
びっくりして跳ね起きた。
見覚えのない毛布は、僕が起きた勢いで捲れた。
一体、誰が掛けてくれたのだろうか。
ふと、僕を背負って運んでくれた和泉守様を、思い浮かべた。
「おう、起きたのか」
いつの間にか隣には和泉守様がいた。僕と同じように毛布が捲れている。
おそらく、先程までは寝ていたのだろう。
そう考えを巡らせていると、視線の右端にある障子が開いた。
明るい光が差してきて、思わず目を細めた。
「兼さんに主さん！起きたんですね」
和泉守様よりも、丸っこい瞳が此方を見つめた。
「よく眠れましたか？」
彼は、柔らかな笑みを浮かべた。
なぜ、彼はこんなにも僕に好意的なのだろうか。
実際に対面するのは、初めてだというのに。
「おうよ、国広。だがなぁ、主が困惑してるじゃねーか」
僕の顔に出ていたのだろうか。
和泉守様が、僕の顔を見て苦笑した。
部屋へと入ってきた彼の名は、堀川国広。
かつて新撰組の土方歳三が愛用していた、と言われる脇差だ。
すると、堀川様は、ばつが悪そうに声を絞り出した。
「あっ……ごめんなさい、主さん」
堀川様はほんの数秒だけ動きを止めると、僕の方へと向き直った。
背筋は、釣り糸で釣られているかのようにシャンと伸びていた。
「先に自己紹介をしないとね。僕は堀川国広です。よろしく」
タブレットにある「刀帳」を見たから、既に大まかな情報は把握している。
なんて、堀川様の澄んだ瞳を見れば、言えなくなった。
そうして再び、堀川様は表裏がない、明るい笑みを浮かべる。
僕は、それに反して顔を顰める。
その笑みが、逆に怪しく見えてしまったのだ。
「……主、どうした」
不思議そうに和泉守様が、首を傾げた。
思えば、和泉守様の「主」という言葉にも違和感があった。
「僕を主として認めるには、余りにも早くありませんか」
「え……」
堀川様が、目を見開いた。それほどまでに、ビックリしたのだろうか。
そうして和泉守様の方に顔を向けると、ひどく困惑している表情を浮かべていた。
和泉守様が、息を呑んだ。そこからありありと感じたのは、困惑と驚きだった。
「……なぁ、主」
半ば放心しているような状態のまま、和泉守様は小さく僕を呼ぶと、こう問いかけた。
「本当に、そう思っているのか」
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作者名：うたた寝する三毛猫 | 作成日時：2022年3月9日 11時
