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5話 ページ6

「……そろそろ行くか」

「和泉守様」

辺りを注意深く見渡すと、和泉守様は歩き始めた。
僕が行き先を尋ねようと呼び止めれば、和泉守様は足を止めて、屈んでくれた。

「どうした」

僕は和泉守様の気遣いに感謝しながら、青い瞳を見つめた。

「何処へ行かれるのですか」

「……悪い、言ってなかったな」

和泉守様は、気まずそうに視線を泳がせた。
僕が首を横に振れば、和泉守様は安心したのか一息ついた。

「離れだ」

和泉守様は立ち上がると、本殿とは真反対の方向を指差した。
和泉守様の指差す先には、本殿よりも一回り小さい小屋のような物が立っているのが、辛うじて見えた。

「随分と離れているのですね」

本殿は、入ってきた門の側にある。
離れは、本殿の反対方向にある。
つまり、ここからかなり歩く必要があるのだ。

「オレにも何故かはわからねぇ」

眉を下げて、和泉守様は申し訳なさそうな表情を浮かべると、続けた。

「……もし歩けそうに無いのなら、背負ってやるぞ」

「結構です」

僕は即座に断った。
確かに体力面では、和泉守様に比べて遥かに僕の方が、劣っているだろう。
だが、だからと言って子供扱いをされたくは無い。
背負われるのも、もっての外だ。

「歩けるか?」

和泉守様は、心配そうに僕を見ていた。
何故だか分からないが、僕には和泉守様がほんの一瞬だけ、他人に見えた。
その他人にどういう訳か、懐かしさを覚えた。

「……歩けますから、早く行きましょう」

僕は、頭の片隅にその他人を追いやると、ほっぺたを膨らませながら、足早に歩いた。
しかし、すぐに和泉守様が追いついてきた。
そうして、僕の隣には和泉守様が並んで歩く、という形となった。
和泉守様は、僕を決して追い抜かず、たびたび僕へと視線を向けていた。気にかけてくれているのだろうか。


僕は、和泉守様と比べると疲れやすい。理由は単純、僕が幼くて、歩幅が短いからだ。
そして「離れまで歩いて行ける」と意気込んだものの、結論としては離れに着く頃には、僕はもうへとへとだった。

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作者名:うたた寝する三毛猫 | 作成日時:2022年3月9日 11時

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