【高峯翠】174cmのお姫様【あんスタ】 (ページ4)

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ピシャーン！
瞬間、甲高い音が私の頭上を貫いた。

骨ばった腕に抱きすくめられて、雷に打たれたみたいに動けない。

どよ、と戸惑ったようなどよめきを、私はどこか遠くで聞いていた。
私を後ろから抱きしめていた男の子が、鳥の雛でも拾うみたいにそうっと腕をほどいて私を引き上げた。

「大丈夫？怪我ないか？」

ぱっちりした二重まぶた。陽を浴びてキラキラ輝く大きな瞳。すっと通った鼻筋に、ほっそりした輪郭、薄い唇。
女の子に人気のありそうなアイドルみたいな顔立ち。

ぎぎぎ、と油を差していないみたいにぎこちない動きの首を回せば、窓ガラスを突き抜けて教室に割り入った野球ボール。
思い出すのは、先週ネットを賑わしていたニュース。ファールボールが直撃して、何針縫合の大怪我を負っていた観客。

男の子に抱きしめられて分け与えられたはずの体温がみるみる急降下していく。一緒に血の気も引いていって、頭がくらくらした。

この子が庇ってくれなかったら、今頃どうなってたか。

「あ、ありがとう……」
震えを押し殺してなんとか絞り出せば、彼は口角を目一杯上げて爽やかに笑った。
まじまじとその顔を見て、ようやく思い当たった。この子、アイドル科のバスケ部の衣更真緒だ。小柄な体ですいすいと大男の脇をかい潜る鮮やかなドリブルが、網膜に焼きついていた。
「そっか、よかった！」
恐怖の滲んだ発声でも、私の無事はなんとか衣更真緒……くんには伝わったみたいだ。
「で、でも、君だって危ないのに……！」
私の必死の訴えを、衣更くんは事もなげに笑い飛ばした。

「俺？俺はいいよ、男だし。女の子の体に傷が残ったりしたら大変だもんな」

私を救う魔法の言葉であり、今後の私の首を絞める呪いの言葉だった。

私のこと、女の子、って言った。女の子みたいにかわいい顔のこの子が。
庇ってくれた、守ってくれたんだ。174cmの私を見て、女の子が、って思って。

「ごめんな、女の子に急に抱きついたりして。無事でよかったよ」

また言った！
衣更くんはだめ押しみたいに女の子、と繰り返すと、私とさして変わらないサイズの手のひらをヒラヒラ振って去っていく。

女の子に急に抱きついてごめん。そう謝りはしても私の反応を伺わないで去っていく傲慢さは、人に愛されて受け入れられてきたからだろうか。
そんな些細なことは気にならなかった。

全部全部、今まで浸っていた悲しみごと、あの言葉が吹き飛ばしていってしまったから。