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放課後、久々にAは零と一緒に帰ることにした。
駐輪場に置いてある零のバイクが見えてきたところで、Aは足を止めた。
「ん?どうした?」
『ちょっと忘れ物しちゃった。
すぐ戻ってくる!』
「おー」
Aはそう言うと走って校舎の方へ戻って行った。
そして向かった先は、天祥院が運ばれていった保健室だった。
『失礼します』
保健室の中に入ると、佐賀美先生は出ているようで誰もいなかった。
Aはお構いなしに、カーテンが閉じられているベッドに近づいた。
そっとカーテンを開けばそこでは天祥院が眠っていた。
それを確認した後、Aは安堵の息をついてそのまま保健室を出ようとした。
「来てくれたんだ」
『……起きてたの?』
「君がいる気配がしてね」
カーテン越しに話かけられ、Aは扉の前で立ち止る。
「心配してくれたのかな?
ついさっきフッたばかりの男を気に掛けるなんて、やっぱり君はお人好しだね」
『性分だからね。こればっかりは死んでも治らないよ』
「死んでも、か……心配せずとも、君は長生きするさ」
『だといいけど』
しばらく沈黙が続いた後、天祥院が再び口を開いた。
「君のこと、僕は割と本気で気に入っていたんだよ。
おかしいよね。最初は利用するために恋人になったはずだったのに、いつしか君の裏表のない笑顔がとても恋しく感じていた。
君と過ごす時間はとても穏やかで、癒やされていたよ」
『私は、そうでもなかったよ』
Aはそれだけ言うと、扉を開いた。
『零ちゃんのこと待たせてるから、もう行くね。
次に大事な人ができた時は、間違えないようにね。それじゃあ』
そう言うとAは零のもとへ戻って行った。
「間違えないように、か……
僕が何を間違えていたのかは教えてくれないのか……意地悪だなぁ」
そう言いながら、天祥院の目には涙が溜まっていた。
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作者名:もぶピ | 作成日時:2022年9月1日 21時