幼なじみのひと言 ページ6
私も小さい頃は、ずいぶんとメルヘンチックな女の子だった。
白雪姫の魔法のキス、シンデレラのガラスの靴、人魚姫の悲しい運命……
流石に魔法が実在するとまでは思ってなかったけど、憧れだった。外国に行けば白馬に乗った王子様が街を闊歩していると思い込んでいたし、いつか大好きな人が自分の前にも現れると信じて疑わなかった。
時は流れて、自分の中でプリキュアブームが巻き起こると、せっせと変身するときの台詞を覚え、自作の変身グッズを揃え、母に衣装を買えと強請った。
そんな夢見る少女時代、私の夢を打ち砕いたのは、早めにプリキュアを卒業したクラスのおしゃまな女の子でもなく、衣装にお金を浪費することに悩んだ母でもなく、生意気な幼なじみだった。
『シンデレラってね、ほんとうはおかあさんをころしちゃうんだよ』
そんなことはありえない、と私はすぐ反撃した。私の知っているシンデレラは、美しく、慎ましく、心優しい、完璧な女の子じゃないか。いつからそんな凶悪な犯罪者になったんだと、当時の私は相当憤慨した。
そして反撃を開始するにあたり、私は小学校低学年の脆弱な読解力で、シンデレラの原作を読んだ。そこには私の大好きなふわふわした世界が広がっており、ほら見ろころん、やっぱりシンデレラは母親を殺してなどいないじゃないか、と私は終始鼻を膨らませてころんの家の方を見た。
そう、読み終わるまでは。
あの時の衝撃は忘れられない。読みおわり、非常に満ち足りた気持ちで本を閉じようとしたその時、『解説』の二文字が目に入った。あ、まだページがある。そう思ってそのページを開いたその時、目に飛び込んできた言葉に私は言葉を失った。
『また、本編はグリム童話を原作としているが、シンデレラの原点となった作品は世界中に存在している。その中の一つ、「灰かぶり猫」という作品では、シンデレラが女家庭教師に唆されて継母を殺すという描かれ方をしている。』
……こんなことを児童文学の解説に書いていいのだろうか、と今なら冷静に捉えるのだが、当時は単に驚きしかなく、その日私はひと言も言葉を発さなかったという。
翌日学校に行ってみると、当の幼なじみは昨日のことなどなかったかのように遊び呆けており、プライドの高い私には間違いを謝らなくてよいという点で却って好都合だったのだが、とにかくその時決心したのだ。
もうおとぎ話なんて信じない、と。
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作者名:紬 | 作成日時:2020年8月3日 13時