ジンクスなんかで ページ5
自信をなくして俯くと、ころんは労わるような視線をこちらに向けて言った。
「Aが頑張ってるの知ってるし、偉いと思うけど、もうちょっと楽しんでもいいんじゃないの?」
お前は何様だ、という言葉は飲み込み、もうちょっと正当な反論を述べる。
「楽しむことなんてないでしょ」
「だから、体育祭だよ、たいいくさい」
一文字一文字区切るように言って、ころんは顔をこちらに向ける。
「ほら、あんじゃん体育祭のジンクス」
「ああ、借り物競争の?」
うちにはしょうもないジンクスがある。借り物競争で『借り物』になった生徒は、その人と結ばれる、みたいな。
別にお題が「好きな人」じゃなくてもいいのが特徴で、だから毎年男子同士のカップルが二、三組生まれるという訳の分からない展開がこの学校の名物でもあった。
「体育祭で成立したカップルは一ヶ月付き合わなくてはいけない」という生徒たちが完全に悪ノリで作った決まりもあり、当の本人たちも結構ノリノリでやっていたりする。ノリノリじゃなくてもクラスメイトに監視されるため、結果的にいやいやカップルを演じることになるのだが。
ちなみに女子同士のカップルがあまり生まれないのは、きっと体力の問題だと勝手に推測している。
「まあ見てて楽しいっちゃ楽しいけど」
「なりたいとは思わないの?」
「ジンクスなんかでできたカップルなんてどーせ自然消滅するでしょ、一週間も経てば」
「ほんっと冷めてるね、人生楽し?」
「どちらかというと楽しい」
「それならいいや」
ふんふふーんと気分良さげに鼻歌を歌うころんを見て、こいつは本当に人生楽しそうだなと他人事のように思った。
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作者名:紬 | 作成日時:2020年8月3日 13時