永遠の愛【中原中也】

参話「冥福」 ページ3

＿＿段々と天候が悪くなっていく。太宰と言い天気と言い、神様は俺に何か恨みでもあるのだろうか。幸いな事に傘は携帯していた為濡れずには済んだが、どうにも不吉な予感がする。

(いや、思い過ごしだ。立て続けの不幸に心が晴れないだけだ)

花屋から徒歩で行ける、此の墓場は、天候からか余り人は来て居なかった。ただ、一人だけ「彼女」の墓石の前で佇む老人が見える。

その老人は花(確か、「ツルボ」と言った筈)を添え、暫く黙祷をした後に、歩み寄る俺に気付き軽く会釈をした。
＿＿此の老人、何処かで見たような。嗚呼、確か彼女と行き付けていたバーの…


「お久しぶりで御座います。中原様」

「……ッ、思い出した、あのバーテンだろ」

「はい。中原様がお元気そうで何よりです」


俺と彼女が裏社会の人間だと知っていても、態度を変える事無く接してくれた。長年の経験からか不思議と貫禄のある奴で、何を言っても動じないバーテン。
何処か広津と佇まいが似ていて、「広津が憧れ」だと口癖のように言っていた彼女はよく懐いていた。


「近年は中々休みが取れず、あまり供養に来れていなくて……全く、彼女には頭が上がりません」

「忙しいっつーと、まだバーテンやってンのか？」

「ええ。しかし、例の一件で半壊してしまったので、店名は改めさせて頂きました」



「……嗚呼、其の件は済まねェ。どんな名前にしたんだ？」

「こうして私は生きているのですから、滅相も御座いません。名前は＿＿＿＿」




*
　

＿＿永遠の愛。
憎たらしい事に、太宰はそう言った。


其の言葉が脳内を駆け回り、まだ考えが纏まって居ないのに自然と足は動いていく。

バーテンがあの店名に変えたのも、太宰がチューリップを俺宛だと当てたのも、彼女と出会ったのも、彼女と別れたのも。
全て、あのバーが原因だったのだ。


＿＿先程から無我夢中で動かしていた足が、「Everlasting Love」と大きく書かれた看板の下で停止する。どうやら場所は変わっていないらしい。
荒々しい手つきでドアノブに手をかけると、思いっきり其れを引いた。






「い〜〜や〜〜〜！わたし昇格するもん！！絶対！！」

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