273……Ki ページ33
Aちゃんが一人暮らしを考えているなんて、全く想像もしていなかった。
それに自分のせいでヒロちゃんが結婚できないんだと苦悩していたことも知らず、気付いてあげることも出来なかった。
俺はずっとAちゃんと同棲したいと望んでいたけれど、自分の気持ちは関係なく、今のAちゃんを救ってあげたいと思った。
ヒロちゃんが一人暮らしさせるのが心配ならちゃんと責任持ってお預かりするから、俺と一緒に暮らさせて欲しい。
今はアリーナツアーが始まったばかりだし、ヒロちゃんが休みの日は地方へ行ってることが多いから挨拶に行くのは難しいけれど、落ち着いたら必ず会いに行こうと決意した。
した、けれど……
今は電話でのやりとりで信頼してもらえてるけれど、俺があの北山だと分かったら、その信頼さえも失うかもしれない恐怖はある。
バラエティー番組での印象や週刊誌の影響で、付き合い自体を反対されるリスクもある。
それでもAちゃんにはこれ以上ヒロちゃんに嘘をつかせたくないし、本当の俺自身を信用して欲しいと思うようになってきていた。
Aちゃんが初めてライブを観に来てくれて、うちの実家へ行って、落ち着いたヒロちゃんに会って……
このアリーナツアーをキッカケに、なにか俺の運命が変わりそうな、そんな気がした。
「ねぇ、宏くん。」
「んー？」
「もしヒロちゃんが結婚したらさぁ……私、お姉ちゃんができるんだよね？」
「ふふ、そうだね。嬉しいの？」
「嬉しいよぉ。赤ちゃんとか産まれたら、もーっと嬉しいなぁ。ヒロちゃん早く結婚してくれないかなぁ。」
「んははっ。めっちゃ気が早いなー。」
「ふふっ。」
「Aちゃん。一緒に少し飲まない？」
「飲む！私取ってくるね。」
俺の上から降りてキッチンへ向かうAちゃんは、とても嬉しそうに見えた。
家族が増えるんだもんな。
そりゃあ、嬉しいよな。
よかったね、Aちゃん。
俺も自分のことのように嬉しくなって、つい飲みたくなってしまった。
Aちゃんがさっきまで書いていたプリントを手に取って眺めていると、テーブルに置かれていたAちゃんの携帯が震えた。
何気なく画面を見ていると、メッセージの一部が見えてしまった。
“なぁ、A。明日うちに来るっしょ？マジ……”
えっ、誰？
これ、明らかに男だよな。
この時、俺は凄く嫌な予感がした。
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作者名：にかみつば
| 作成日時：2020年12月9日 18時
