257……F ページ17
「ベルちゃんて歩きながら時々振り向いて太ちゃんの顔を見上げるの、可愛いですね。」
「ちゃんとついて来てるかなぁって、確認してるみたいでしょ？」
「ふふっ、はい。凄く可愛い。」
ベルを散歩させながら、Aちゃんと並んで他愛もない話をたくさんした。
就職の話になった時、希望していた講師の内定が貰えたことを嬉しそうに教えてくれた。
「俺はねえ、高校時代は幼稚園の先生になりたくて、そういう大学に進むことも考えたんだよねぇ。」
「そうなんだぁ。太ちゃんって幼稚園の先生、凄く合ってる気がしますっ！キャラクターのエプロンとか着たら似合いそうだし。」
「俺って、幼稚園の先生が合うように見える……？」
「はい。ベルちゃんに接してる優しい姿とか、私に話しかけてくれる言葉とかが凄く柔らかくて、小さいコと接する仕事とか向いてるんだろうなぁって。」
「ははっ、そっか……。Aちゃん、ありがとう。」
人生で初めて言われた。
幼稚園の先生になりたかったという話を人にすると、みんな意外だと言って散々驚かれてきた。
ガヤには園児よりもセクシーなお姉さんの方が断然似合うよって。
自分でもなんとなくそんな気もするけど、やっぱり悲しくなるんだよね。
あぁ……俺には合わないのか、って。
でもAちゃんには俺が園児と遊んでる姿は意外でもなんでもなく、容易く想像できるんだね。
ちょっと泣きそうになるくらい、めちゃ嬉しかった。
Aちゃんが言ってくれた言葉、きっと俺は一生忘れないと思う。
「ここがベルも入れるドックカフェだよ。」
「わあ、おしゃれー。」
ベルのトイレも済んでドックカフェへ入ると、平日ということもあって、わりと空いていた。
「店内に座ろうか。」
「はいっ。」
いつものお店の奥のテーブル席にAちゃんと向かい合って座って、目の前にメニュー表を広げてあげた。
「なに頼む？遠慮しなくていいからね。」
「あの、この間ご馳走してもらったから今日は私がご馳走します。」
「Aちゃんはそんなこと気にしなくていいよ。」
「でも……。じゃあ割り勘にしてもらえますか？」
「ふふっ、どうしようかなぁ。」
Aちゃんの言葉を躱して、メニューを見ながらアイスコーヒーとチーズケーキに決めた。
ベルには好物のかぼちゃマフィンを注文してあげようかな。
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作者名：にかみつば
| 作成日時：2020年12月9日 18時
