oblivion-忘却-16/S ページ39
「・・・ニノに何したの?」
真顔になった智君の低音が舞う。
そんな智君の問いに、鏑木は静かに答えた。
「魔法をかけたのよ。
私の言葉を素直に聞きたくなる様な魔法を・・・。
でもその魔法はまだ効き目が弱いから、二宮さんを貴方達のところには返せないの。」
その言葉に智君は、目の前の建物を眼で捉えた。
「ねぇ、鏑木さん。
俺達、今何処にいると思う?」
「・・・・・・・・。」
「国会議事堂前。」
さっきまでの柔らかな微笑みとは別の、壮麗な笑みが智君の顔に浮かぶ。
「・・・何を企んでるの?」
「鏑木さん、アンタが迎えをよこさないなら、今から10分毎に俺が国会議事堂を破壊する。
もしもここを壊しつくしたら、今度は各省庁の建物を破壊する。」
「・・・そんな脅し、通用しないわよ!!」
「・・・本当に脅しだと思う?」
・・・微笑んだ智君の手が銃の姿を形どる。
瞳は晴れた日の冬空のように
淡い青がゆらゆらと燃える。
ピンと伸びた細く長い人差し指が議事堂を捉えると
彼は片目を閉じ、照準を合わせた。
「ばぁん!!!」
短く叫んだと同時、目に見えない強力な何かが
指先から放たれる。
瞬間、岩が砕け飛ぶ轟音と共に、議事堂の正面の象徴的な屋根が崩れ落ちた。
「さ・・・ささ智君?」
「アンタ・・・今何やった!!!」
「・・・ムチャクチャだよ!!
リーダー!!!」
細い指がおれ達の前に踊り、片手でパニクったおれ達を制すると、智君は鏑木に語りかける。
「今の音、聞こえた?」
「本気でそうするつもりね?
いいわ。・・・少し時間を貰えるかしら。
すぐにはそこに迎えをよこせない。」
「早くしてね?
10分毎。
これは譲らないよ?」
「本当に早くしてくれないとさ、この国が機能しなくなっちゃうから。」
そう言ってふにゃあって智君特有の笑みを浮かべると、彼は鏑木との電話を切った。
そして微笑んだままおれ達に語りかける。
「むこうで迎えに来てくれるって。」
柔らかな印象のまま優しく微笑む智君に、おれは言い知れぬ深い怒りを感じた。
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作者名:あさり | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/list/a-ground/
作成日時:2012年4月11日 0時