６話 ページ7
今日は生憎の天気で、空には黒い雲が厚くたれ込めていた。
洗濯物を干したがっていたきっくんは、今にも降り出しそうな空を、恨みがましそうな目で見ている。
「えおえおが出掛けてなきゃ干せたのに！」
「もうそろそろじゃね？」
あろまが呟いた瞬間、バケツをひっくり返したような大雨が降り始めた。
ザァッという音と共に、水煙で窓の外が白くなる。
ゲリラ豪雨と呼ぶにふさわしい降りっぷりだ。
「A？」
目の前で一緒に遊んでいたAが、忽然と姿を消していた。
いや、目の前からあろまの背中に移動したらしい。
着ているカーディガンを捲り、頭を隠した状態であろまの背中にしがみついている。
「なんだA、怖いのか」
突然の雨に驚いたのか、背中の幼子はぷるぷると可哀想なくらい震えている。
だが今のAは、完全に「頭隠して尻隠さず」状態なので、申し訳ないが笑ってしまう。
「A、大丈夫だから、」
そう言った瞬間、視界の端で空が光った。
間髪入れず、天を裂くような雷鳴が轟いた。
腹の底に響く轟音に、油断していたあろまの身体も少し跳ねる。
きっくんと2人で近くに落ちたかな、なんて話をしていると。
「――また落ちたか」
「めっちゃ近いんじゃない？」
「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛！！！」
雷に驚いたA、爆泣きである。
あろまの背中にしがみついたまま、あらん限りの声で泣き叫んでいる。
唯一見えているお尻を震わせてギャンギャン泣くAを見て、きっくんはお腹を抱えて笑っているが。
「A、Aちょっと手ェ離せ」
「や゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛！！！」
嫌がるAをなんとか引き剥がし、向き合う様に体制を変える。
間髪入れずに腹に抱き着いて泣きじゃくるAの耳を、掌で覆った。
「怖かったらこの音聞いとけ」
ひっ、ひっ、としゃくり上げるAだが、先程までの混乱は内容だ。
ぐしゃぐしゃの顔を上げてあろまを見ながら、言われたように掌の音を聞いているようだ。
掌を耳に当てると、小さなゴォォという音が聞こえてくる。
これは身体を巡る血液が流れる音で、怖い時はこれを聞いていると安心するんだよ、と雷に怯えていた幼い頃、きっくんが教えてくれた事だ。
この音に耳を傾けていると、雷や暗い夜も怖くなかった事を良く覚えている。
自分がしてもらった事をAへ。
少しでも不安がなくなるように。
その想いを込めて、雷が鳴り止むまでの間、Aの耳を覆い続けた。
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作者名：ねい | 作成日時：2017年8月28日 22時
