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86話(side:E) ページ36

 
「Aー?どこ行ったー?」


最近夜が涼しくなってきたから、久々に湯船をはった。
Aと一緒に肩まで浸かって、100数えてから出るのが定番になっている。
大抵Aが先に脱衣所で着替えて、俺が髪を乾かす流れになってるんだけど、今日は脱衣所にAの姿がない。
秋用のパジャマに変えたから、湯冷めして身体が冷える事はすぐには無いだろうけど、濡れたままの髪を放っておいて、風邪でもひかれたら大変だ。


「こらA、風邪引くだろ」


ふわふわのバスタオルを持ってリビングに行くと、庭へ続く窓を開けて、縁側にしゃがんでいるAの小さな背中があった。
背中から包むようにAに覆い被さって、濡れたままの髪を拭いていく。
むーむーと抗議っぽい声が上がるけど無視だ。


「お兄ちゃん、虫の声がする」


ある程度の水気を取り、肩にかけたタオルの上に髪を置いてやると、首を反らしてそんな事を言う。
ふと意識をAから庭に移すと、確かに虫の声がする。
少し前までは何も聞こえなかったのに、少し気温が下がっただけで、庭には鈴虫やコオロギが羽を震わせる、透き通った音で溢れていた。


「お兄ちゃん、なんて虫かわかる?」
「んー。リーンリーンって鳴いてるのが鈴虫で、コロコロコロって鳴いてるのがコオロギかな」


鈴虫は分かるけど、コオロギは正直自信ない。
でもAは名前がわかっただけで満足らしく、そうなんだ、とまた庭に視線を戻した。
そういや童謡かなんかに、こういう歌無かったっけか。
松虫とか、なんか色々鳴き声が並んでるような…。
ダメだ、思い出せん。


「凄いね、虫がみんなで歌ってるみたい」


確かこんな風に、降るように聞こえてくるたくさんの虫の声の事を、虫時雨って言うんだとどこかで聞いた覚えがある。


綺麗だね、とご満悦なAが風邪を引かないように包み込んで、2人揃って虫達の大合唱に耳を傾けていた。


 

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ねい(プロフ) - ひろひろ花さん» ひろひろ花様、コメントありがとうございます。一気に読んで頂けるとか感謝感激です。頻度はまちまちですが、今後もこんな感じで続けていこうと思っておりますので、お付き合い頂けますと幸いです(*´∀`*) (2017年9月6日 10時) (レス) id: 6c8b868609 (このIDを非表示/違反報告)
ひろひろ花(プロフ) - パート1から一気に全部読んでしまいました、読みやすいし素敵な内容でめっちゃ好きです…!続きお待ちしてます〜!頑張ってください、応援してます! (2017年9月3日 23時) (レス) id: c83e1355fb (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ねい | 作成日時:2017年8月21日 23時

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