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俺は慌てて陛下から離れ、居住いを正して頭を垂れた。
「し、失礼いたしましたっ、……」
「良い。下を向くな。大事ないか?」
そのお言葉に甘えて顔を上げればそこに。
同じ目線に、先程の塔の上での何処か寂しげな空気を吹き飛ばして、いつもの凛とした陛下がそこにいた。
「あ、は、はいっ、」
非礼を詫びようと再び頭を下げようとした俺に、不意にその御手が伸びて俺の頭をゆっくりと撫でた。
「!?」
どうしたらいいのかわからず、固まる俺を尻目に陛下の手が優しく髪を鋤く。
柔らかに行き来するその手。
それはひどく優しく、そして温かかった。
「へ、陛下……?」
陛下は何も仰られず、ただ俺を見ていた。
窓から射し込む日の光は陛下を柔らかく照らし、その神々しいまでのお姿に俺は見惚れるしかなかった。
「北山。」
「は。」
「ここで何を?」
「あ、はい、先日の件で代理様にご報告を。」
「そうか……。」
徐に陛下は立ち上がり、代理様の執務室の扉を見つめた。
そこは。
今は代理様の執務室だが、正確には紅様の執務室だ。
引っ切りなしに舞い込む仕事。
報告書や議事録、申請書に至るまで結末印は陛下と紅様と桜様の印だ。
国で起こる全てのことを御三方は把握されている。
政務官、秘書官、その他諸々を考慮し紅様の執務室をそのまま代理様が引き継ぎ、代理様の執務室となった。
紅様の印が代理様の印に変わって5年。
そうか……。
俺が藤ヶ谷を失った5年は、この方にとっては紅様の帰りを待つ5年か……。
「報告は、良い。」
「い、いえ、しかし……。」
「良いから、そなたはとりあえず今日は自室に帰って休め。」
「お気遣いありがとうございます。ですが、「北山。」
「……は。」
「ゆっくり、休め。良いな?」
有無を言わせない、陛下の言葉。
もうどうあっても休ませる気なのが伝わってきた。
「はい……。」
まただ。
直感としか言い様がない……何か。
ふわりと漂う、違和感。
確かに陛下なのに。
間違いなく、俺が敬愛し続けてきた陛下なのに。
何かが違って見える。
言葉では説明の出来ないものがそこにあるように見えた。
もどかしい思いを抱えながら、後ろ髪を引かれる思いでその場を離れるしかなかった。
陛下のお側を離れて歩く道すがら、甘い香りがふわりと鼻先を擽った。
藤ヶ谷─────……?
そう思った自分に、自嘲の笑みが漏れた。
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流華(プロフ) - 充瑠さん» 充瑠さーん♪お久しぶりでーす♪♪わぉ、ロケ地に行かれたんですか!?羨ましいー( ☆∀☆)私も行きたいなぁ。頑張って更新していきますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ここさん» ここさん、こんにちは。コメントありがとうございます♪藤北さん……拗れてまさからね(笑)どうなることか(^_^;)頑張りますので、今後もよろしくお願いいたしまーす(*´∀`)♪ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - 椿さん» 椿姫……(笑)喜びの舞だったり、机の角で頭ぶつけたりと忙しいな(笑)ああ、卓袱台返しの準備もするんだっけ?(笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつも、ありがとうございますー♪ヽ(´▽`)/ゆっくり進んでます(笑)そうです、お墓ですよ。あれが、誰のお墓なのか…。ポイントですね、それ(笑)伏線……回収出来るはずです(たぶん/笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
充瑠(プロフ) - 流華さーん!!お久しぶりです。いよいよですね!実はこの夏に、ロケ地に行ってきまして。まだ記憶も鮮明なので、今後が楽しみです^^いつまでも待ちますー (2018年10月21日 0時) (レス) id: 5cca4c3768 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年6月8日 11時