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俺は動けなかった。
背中を壁に預けたままで、ただそこに立ち尽くして。
胸が痛い。
いつからか、女物のような甘い甘い香りを纏うようになった藤ヶ谷。
その香りが、更に胸を痛くする。
知らない時間が増えて、知らないことが増えていく。
それが別れるってことだ。
踏み込んで良かったことに踏み込めなくなる。
知らない香りを纏って。
知らない顔で笑って。
知らない場所で眠りにつく……
俺の知らない藤ヶ谷。
藤ヶ谷の傍は、凍らせたはずの想いが溶けて滲み出す。
その想いは、溶けて流れた氷柱のような鋭利さでもって心を刺す。
無表情の瞳が痛い。
触れられない距離が切ない。
甘い香りが苦しい。
冷たい声が哀しい。
噛み締めた唇は、仄かに鉄の味がした。
五感が、藤ヶ谷を求めて疼く。
俺は、立ってさえいられなかった。
壁に背を預けたままに、ずるずると膝から崩れ落ちる。
ここは城内で、誰が通るとも限らないのに。
それでも。
心が散り散りになりそうで。
端から見れば、広い緋毛氈の敷かれた廊下の隅で身体を丸めるように座り込む俺はたぶん滑稽で。
けれど、そんなことどうでも良かった。
ただ、痛くて。
心が。
抱えたどうしようもないほどの胸の痛みを吐き出すように呼吸が早くなる。
「っ、……はっ、…くっ、はっ、……」
早くなる呼吸に呼応するように鼓動さえもが暴れだして苦しくなって。
痛い。苦しい。哀しい。
声が出ない。
息が上手く吸えない。
感情が溢れるみたいに視界が歪む。
浅い呼吸を何度繰り返しても、苦しいままで。
世界が明滅して平衡感覚を失っていく。
とにかく、その苦しさから逃れたくて宙を掻いた手が何かを掴んだと、そう思った時。
「北山、落ち着け。ゆっくり息をしろ。」
温もりに包まれた。
耳に響く落ち着いた声と、心音。
明滅する視界で捉えた白。
聞き間違えるはずもない、俺の敬愛した虹色の声だった。
「へ、ぃかっ、……」
「大丈夫だ。落ち着け。ほら、ゆっくり吸え……長く吐け……」
陛下の言葉に合わせてゆっくりとした呼吸を繰り返した俺は徐々に落ち着きを取り戻していった。
とくん、とくん、と陛下の規則正しい鼓動が鼓膜を震わせて伝わってくる。
クリアになる視界の端で、見え隠れする細い銀の鎖。
座り込んでいた俺の横に陛下が膝を付き、その胸に頭を抱き込まれていた。
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流華(プロフ) - 充瑠さん» 充瑠さーん♪お久しぶりでーす♪♪わぉ、ロケ地に行かれたんですか!?羨ましいー( ☆∀☆)私も行きたいなぁ。頑張って更新していきますねー♪ヽ(´▽`)/ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ここさん» ここさん、こんにちは。コメントありがとうございます♪藤北さん……拗れてまさからね(笑)どうなることか(^_^;)頑張りますので、今後もよろしくお願いいたしまーす(*´∀`)♪ (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - 椿さん» 椿姫……(笑)喜びの舞だったり、机の角で頭ぶつけたりと忙しいな(笑)ああ、卓袱台返しの準備もするんだっけ?(笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - SIZUKUさん» SIZUKUさーん♪♪いつも、ありがとうございますー♪ヽ(´▽`)/ゆっくり進んでます(笑)そうです、お墓ですよ。あれが、誰のお墓なのか…。ポイントですね、それ(笑)伏線……回収出来るはずです(たぶん/笑) (2018年10月26日 13時) (レス) id: b5b973b1e3 (このIDを非表示/違反報告)
充瑠(プロフ) - 流華さーん!!お久しぶりです。いよいよですね!実はこの夏に、ロケ地に行ってきまして。まだ記憶も鮮明なので、今後が楽しみです^^いつまでも待ちますー (2018年10月21日 0時) (レス) id: 5cca4c3768 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2018年6月8日 11時