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「藤ヶ谷?」
背中の温度を感じながら、動く気配のない俺に北山が伺うように問いかけてくる。
北山の問いかけに、隣に立っていた渉の視線もこちらを向いた。
別に深い意味も他意もなくて、ただ少しだけ数年前を思い出していたから反応が遅れただけだったけれど。
「どした?体調悪いか?」
肩越しに問われる声は優しく穏やかで。
俺が北山を遮断していた頃、苛つくほどに変わらないと思った北山の態度。
けれど、デビュー前ほどの近い距離とは言えなくても遮断することを止めて、意を決して歩み寄ってみれば、意外にも遮断していた頃は声のトーンが硬かったことに気が付いた。
今、柔らかに俺を呼ぶ声。
これが、北山で。
これこそが、北山なんだ。
先程の、甘く妖しくピアノを奏でる北山は。
あれは。
あれは。
「おい、藤ヶ谷?」
「太輔?」
「ガヤ?」
耳に心地いい北山のトーンを実感していたら本格的に反応が遅れて。
気が付けば、背中にいた北山も隣に立つ渉も、それから玉までもが俺を覗き込んでいた。
「ごめん、何でもないよ。」
「ホントか?」
心配そうに眉尻を下げる北山は、あの日の喫煙所から更に年月が過ぎたはずなのにやっぱり童顔は変わらなくて。
「うん。」
俺の返事に北山は疑いの目を向けながら渋々納得する。
ひとつ、これだけは大きな誤算だった。
再び距離を少しだけ縮めてみたら、意外にも北山は過保護で。
特に、俺の体調については渉以上に過敏に反応する。
渉に言わせれば、そこを気にしていたのは昔かららしく距離が開いていた頃には、北山から「今日の藤ヶ谷は体調悪いから無理をさせるな」と何度か言われたと苦笑いで暴露された。
はっきり言って、本気で恥ずかしくなった。
誰にも気付かれないようにしていた体調不良を、北山に見破られていたなんて。
そうして思い返せば、口も聞かない距離にいた頃にさりげなくフォローされていた・・・ような気もする。
偶然だと思ってた"助かった"と感じたあれこれは恐らく北山の気遣いだったのだろうと思うと、やはり恥ずかしさは拭えない。
「何か・・・不思議な関係だねぇ、二人。」
甲斐さんが、先程と同じような瞳で俺達を見ていた。
先程、北山にピアノを弾かせた、面白いものを見つけたと言わんばかりの子供のような瞳。
この人は、好奇心旺盛で己の欲望に正直なのだろう。
「それより、甲斐さん。」
「ん?なに?」
「何で、今回"王子様"なんですか?」
あ、話を逸らした。
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流華(プロフ) - さゆさん» さゆさん、こんにちは。コメントありがとうございます。表現と描写は、本当に気を遣っている部分なので、そこを誉めてくださると嬉しくて更に頑張ろうと思えます。活力をくださってありがとうございます。今後も頑張りますので、移行後もよろしくお願い致します。 (2021年9月17日 18時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - ユキさん» あははー。良いところで狙って切る癖は、今も健在です(笑)でも、ホントにこのお話はノリとか勢いで書き始めたところがあるので、そんな感じに軽いです(笑)上質と仰っていただけること、本当に嬉しいです♪♪今後もお付き合いくださいませー♪ (2021年9月17日 17時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
さゆ(プロフ) - 言葉の遣い方がとても綺麗で、文字数が多いのに一言一句しっかりと目で追ってしまいます!本当に素敵です!移行先でも楽しみにしています! (2021年9月12日 14時) (レス) id: 4e568979a2 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - うわ!そこで移行ですか!!!笑 めっちゃ気になりますーー!上質なお話を読んでいたのに「面白いそー♪」って流華さんのノリの温度差に笑ってしまいました笑 続き楽しみにお待ちしてます☆ (2021年9月12日 13時) (レス) id: d4b3736ff0 (このIDを非表示/違反報告)
流華(プロフ) - sioriさん» sioriさーん♪♪にゃはは〜だって、狙って切ってますもん(笑)読み返してくれたんですか!?嬉しーです♪♪今回は伏線無しだから、謎とかも無いですけど楽しんでくれたら十分です♪sioriさんが読んでると気合いも入るので!!! (2021年9月12日 12時) (レス) id: 9ee96bd060 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:流華 | 作成日時:2021年8月11日 13時