【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

貴方って変な女ね ページ41

及川｢あのね、エマがAちゃんと話したがってるんだ｣


お互いの交友関係に口は出さないとは決めたものの、徹は言いづらそうにエマの名前を口にした。

無理もない。
最後にエマに会った時は、徹の前でめちゃくちゃにブチ切れてたし、私。


及川｢あっ、Aちゃんが嫌だったら無理にとは、｣


言葉の途中で、焦ったような顔をする徹の両頬をむにっと摘む。
変な顔、と言って笑い声を漏らした。


A｢大丈夫。受けて立つわ｣


喧嘩するつもりは微塵もないけど、冗談交じりにそう言えば、徹は不安そうな表情を浮かべていた。


▲▼


エマ『Disculpe.(ごめんなさい)』


開口一番、エマはそう言った。

スペイン語には謝罪に使われる単語が三つある。
その中でも、相手に迷惑をかけてしまった時、許してほしいという気持ちを込めて謝罪する時の単語をエマは口にした。


A｢《いーよ。謝んなくて》｣


牙を抜かれた獣のようなエマの弱々しい声色に、ふっと笑いながら返す。


エマ『《何笑ってるのよ？私に言いたいことあるでしょ？》』

A｢《暴言吐いてごめん》｣

エマ『《…違うでしょ？そうじゃないでしょ？》』

A｢《何？アンタは私に怒ってほしいの？》｣


質問に質問で返すとエマは言葉を詰まらせた。

エマの言わんとすることは分かる。
でも、私にはエマを責める気は毛頭なかった。


A『《あのさ、アンタに関係なく、遅かれ早かれ私達はこうなってたと思うんだ。アンタは悪くない。本当に徹のことを想っててくれてただけ。徹を不安にさせた私がいけなかった》』


あの時、ぐちゃぐちゃな泣き顔で徹に寄りかかっていたエマはしんどかったはすだ。
徹と別れた時の私のように、地獄にいるような気分だったはず。


A｢《私もアンタも同じ境遇で戦ってる同志だったのに、分かってあげらんなかった。ごめん》｣


エマはそのまま言葉を失ったようにして黙り込んだ。

しばし私達の間に沈黙が流れた後、ふとエマが長く、息を吐き出した。呆れとは違う感情からくる、吐息。


エマ『《…貴方って変な女ね》』

A｢《…うん。よく言われる》｣


こうやって腹割って話せばよかったんだ、私達は。
そうしたらもっと早く分かり合えたかもしれなかった。


ーー“Aはエマのいい友達になってくれそうな気がする”


エマの兄、レオに言われた言葉を思い出しながら、私はふっと頬を緩ませた。

私はもう、エマが嫌いじゃなくなっていた。

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