【及川徹落ち】18000キロメートルの恋 5th【黒尾鉄朗】

思い出を拾い集める ページ27

正月ムードも過ぎ去り、真夜ちゃん達は明日から学校が始まるらしい。

宮城は今日も雪が降り、慣れ親しんだ道を真っ白に染め上げた雪の上を踏みしめて歩く。

ゆく宛など無く、ふらふらと足が勝手に向かう方へと歩いていると、辿り着いたのは二年前に卒業した青城だった。

開け放たれた正門の前で足を止め、“青葉城西高等学校“と掲げられた学校銘板を指先でなぞり、物思いにふけっていると、


担任｢久しぶりだなぁ｣


声を掛けられ、顔を向ける。
そこにはGWぶりに見る、高三の時の担任の姿があった。


A｢…先生、お久しぶりです｣


軽く頭を下げてそう言うと、先生は訝しげな視線を向けながら、どうした？変なもんでも食べたか？と失礼なことを言ってきた。


担任｢一人か？｣

A｢…はい。ちょっと散歩しに来ただけなんで｣

担任｢そうか。…それにしてもお前、元気ないなぁ。どうした？お前が大人しいと調子狂うなぁ｣


先生は困ったように笑うと、ほら行くぞ、と顎で校舎の方を指し示してきた。


担任｢コーヒー淹れてやる｣

A｢…インスタントかぁ｣


ぽつりと零すと、文句垂れるなら淹れてやらないからな、と先生は横目でじろりと睨みつけてきた。


▲▼


A｢教員免許取ろうかな…｣


職員室、先生の淹れてくれたインスタントコーヒーを啜ると、独り言のように呟いた。


担任｢急にどうした？｣

A｢…いえ。ただ、地元戻って英語教師やんのも悪くないかもって思って｣

担任｢教師は大変そうだからしたくないって言ってたろ｣

A｢そうですね｣

担任｢それに通訳は？進路相談のときに啖呵切ってたのは何だったんだ？｣


進路相談。啖呵。


ーー“誰かに向かう真剣な気持ちが進路になったらダメなんですか？“


…そうだ。高三の９月、この職員室で私は先生に威勢よくそう尋ねていた。

あの頃の私は恐れるものなんてなくて、ひたすらに前だけを向いていた。
まさかこんな事になってしまうだなんて微塵も思わなかった。


A｢…失くしたんです｣

担任｢何を…｣

A｢真剣な気持ちを向けていた“誰か”｣


薄笑いを浮かべると、空になったマグカップを置いて椅子から立ち上がった。


A｢コーヒーご馳走様です。ちょっと色々見て回ってきます｣


また帰りに寄るので、と付け加えると、固まる先生に背を向けて職員室を後にする。

溢れて零れ落ちてしまった徹との思い出を拾い集めるようにして校内を歩き出した。

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