【国見英】賽は遥か遠くにぶん投げる 2nd【青城】

引くことも深く踏み込むことも ページ1

▲▼国見 side


…そんな安い挑発に誰が乗るかよ。

感情的になったら負けだと視線を逸らして平静を装うとした、その時。


A｢あの…触んないでもらってもいいですか｣


困ったような弱々しい声を耳が拾い、顔を向ける。
顔を向ければ、Aは頬を少し赤く染めて余裕無く狼狽えていて、胃の奥が熱く震えた。

…今、分かった。

Aはああいう性格だし、人から好意を向けられたことがそもそも少ないから、免疫がないんだ。

理屈じゃない、怒りに似た感情が沸き起こる。
もう、ダメだった。そんな顔を見てしまったら。

膨らんだ風船がパチンと弾けるようにして、Aの手を引っ掴んで自分の方へと強く引き寄せる。
不意打ちの行動にAは勢いを止められず、俺の肩口へとぽすんと収まった。


A｢えっ、何…？｣


ぱっと顔を上げたAの瞳は戸惑いを隠しきれず、大きく揺れていた。


国見｢…髪、絵の具に付きそうだったから｣


言いながら、Aの近くにあったパレットを顎で示した。
咄嗟に浮かんだ信ぴょう性の高い嘘がつける自分を褒めてやりたい。


A｢…ああ。ありがと｣


調子を取り戻したAは、髪結ばないとね、とぽつりと言うと、その場を立ち上がって、自分の席へと歩いて行った。
ヘアゴムでも取りに行ったんだろう。


矢巾｢…国見さぁ、ちょっといい？｣


強い声だった。普段とは全く違う。

矢巾さんはイラついた様子で髪を掻くと、立ち上がってさっさと廊下へと歩いて行く。
ああ怒らせたわコレ、とどこか他人事に思いながらその後を追うと、シラを切った。


国見｢何ですか？校舎裏でボコるんですか？｣

矢巾｢…そんな陰湿なことするかよ｣


矢巾さんは階段近くの踊り場で足を止めると、背中を向けたまま尋ねてきた。


矢巾｢お前やっぱりあの子のこと好きだろ｣

国見｢違うって言いましたよね、前にも｣


間髪入れずに否定すると、気に食わないとでも言うように盛大な舌打ちが矢巾さんから降ってきた。


矢巾｢何で否定すんの？そのクソみたいなプライドは何？｣


矢巾さんは俺に振り向き、不機嫌そうに目を細めた。

一気に空気が重くなり、ピリつく。


矢巾｢引くことも深く踏み込むこともしないで中途半端にちょっかいかけて…ムカつく｣

国見｢…べつにちょっかいなんか、｣

矢巾｢よく言うわ。何で好きなくせに正面から自分の気持ちに向き合わねーの？｣

本当の本気→

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