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□本人には言いませんけど ページ16

オートロックのエントランスを抜け、エレベーターに乗り込む。両手が塞がっていたのでたいへん押しづらかったけど、なんとか目的の階へのボタンをタッチしてひと息ついた。


風邪ひいたっぽい


これは昨日来たLINE。私が今どこへ向かっているのかなんとなく察しがついたと思う。それたぶん正解だよ。


「おはよ、めいちゃん。」
「はぁい。おはよお。」

重厚感のある扉から覗いたのは、心做しかやつれて見えるめいちゃんその人だった。

「合鍵あるし寝てていいのに。」
「いいのー。Aこそ、今日休みでしょ?おれ別にそこまで酷くないし…。」
「はいはい、病人は大人しくしといて下さいねえ。」

欠伸をしながらベッドに潜り込んだ病人を横目に散らかり放題のリビングへ向き直る。
洗濯機まわす気力もないくせに、なーにが酷くないだ。まったく。


「めいちゃん薬飲んだー?」
「んーまだぁ。」

絶対めいちゃん朝の分飲んでないじゃん。
まあ、時間的にもご飯食べさせなきゃなあと思ってたところだったから丁度いいか。

「何なら食べられる?卵粥?ゼリーもあるけど。」
「ゼリー…。みかんのやつ…。」
「残念、桃です。」
「んわぁ〜〜ん!」

ベッドでのたうち回る音が聞こえるけどしょうがない。みかん売り切れだったんだもん。

というか、とらちゃんたちが餌を催促してこないあたりにゃんぴーにはちゃんとご飯あげてたっぽい。猫飼いは猫に飼われていると聞くけど、ほんとの話だったんだな…シンクの食器はそのまんまのくせに、猫ちゃん用の水入れはピカピカだし…。


「めいちゃんまだ寝ちゃだめだからねー!」
「…。」
「めいちゃーん!」
「声おっきいってえ!」

部屋を片付けながら寝室へ声をかけ続ける。眠たいうちに寝させてあげたい気持ちは山々だが、彼はまだ薬を飲んでいないので寝かすわけにはいかないんです。ごめんね。

「ねぇA喉いたーい!」
「お薬飲んでないからでしょ!ネギでも巻いとけば!」
「ネギの香り成分には殺菌、消炎効果があるので呼吸する器官から1番近い首元に巻くのはあながち間違いでは無いんですよね。はい。」
「うさんくさ…。」

めいちゃん胡散臭いこと話すとき妙に饒舌だよね。よく舌もつれないな。怖いよ。

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作者名: | 作成日時:2022年8月29日 23時

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