□本人には言いませんけど(2) ページ17
「お待たせ、ゼリー来たよ。」
小さなトレーに薬とゼリーを乗せて、開きっぱなしの扉を一応ノックした。防音室兼寝るとこ、みたいな前回の間取りからだいぶ進化したなあと地味に感動するポイントだ。
「ありがと。」
「いーえ。」
毛布の塊がのそのそと鈍い動きで起き上がる。季節の変わり目だし、最近色々立て込んでたみたいだし、まあそりゃ風邪のひとつやふたつひくよね。元々ちゃんと寝れてるかどうかも怪しいスケジュールしてるから。
「A見てみて。」
出た、みてみてめいちゃん。
これが出たときにろくなことを言った試しがないけど、とりあえず促されるまま手元のゼリーへ目を遣った。
「なに?」
「フラットアース。」
「ほらね。」
「地球ってね、丸くないんだよ。」
なにが怖いって、これが体調悪いがゆえの妄言ではないということ。平常時でもふとしたときに思想強めの発言するからびっくりしちゃうよ。
「それ肯定も否定も危ないじゃん、やめてよ。」
「なになに否定って。え?」
「そんな元気そうならゼリーいらないね?」
「うわあ嘘嘘!ごーめんってぇ!」
嘘嘘も若干危ないんだよ。いろんな考えの人がいますからね、一概にはどうとも言えませんから、とだけ言っておく。
めいちゃんの口へ運ばれたゼリーたちはほんの数口でカップからいなくなってしまった。食欲は戻りつつあるみたいでちょっと安心。
「眠たい…。」
「寝たら?」
「やだよ、寝たらAいなくなっちゃうじゃん。」
うとうとしながら寂しそうに呟くめいちゃんに不覚にもキュンとしてしまう。さっきまで地球平面説を謳っていた怖い人と同一人物だとはとても思えない。
「いなくなんないよ。寝るまでここにいるし、起きるまで帰んないから。」
「ほんとぉ?」
「ほんとぉ。」
少し寝癖のついた髪をあやすようにすいてあげる。重たそうなまぶたを数回瞬かせたあと、眠気のピークが来たのか会話はそこでぷつんと途切れた。
「犬みたい。」
ふわふわな髪の毛とかもそうだけど、どっちかというと中身が。手を寄せると擦り寄ってくるところとか、全幅の信頼を寄せてくれてるんだなってありありと感じられて微笑ましい。
めいちゃんは寝落ちるまで気にしていたけど、そんなふうにされたらそりゃ看病にだって来たくもなる。
むしろ役得まであるし。なんて。
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作者名:哀 | 作成日時:2022年8月29日 23時