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あの夜以降、なんとなくめいちゃんとは距離を置いていた。別に核心に触れられたわけではないけど、きっとあれが答えなんだろう。
めいちゃん俺そろそろ引っ越す
それまでに話せない?
既読をつけられないままのLINEはそこで途切れている。仕事を理由にするなんて、どこまでも臆病でずるい女だ、私は。今も昔もずっとずっと逃げてばかりで。
もういい加減に向き合わなければいけないのだけど、どうしても足がすくんでしまう。ぐるぐるとマイナスなことを考えては、今日も今日とてしなくてもいい残業をして気を紛らわせている。
―そうこうしているうちに、めいちゃんは隣から居なくなってしまった。
***
「…お。」
「え?」
夜も深け、すっかり肌寒くなってきた今日この頃。夏の終わりを予期させるかわいた空気が辺りを漂っている。
なんとなく遠目のコンビニへ足を伸ばすと、喫煙所でタバコをふかすピンクのDQNと目が合った。
「マジどこでもいるね。」
「ん?なんか棘あんな?」
「てかなるせ吸ってんだ?」
「ホントたまーーによ。」
ひらりと手を振る男は一見女の子と見間違うほど端麗な容姿をしているのに、仕草と格好の治安の悪さがそれら全てをかき消している。
「どれ?」
「ピースライト。」
「1本ちょーだい。」
紺色のパッケージに手を伸ばすと届かないところに避けられて、笑いながら『やめとけ』とたしなめられる。
くゆる紫煙を、何をすることもなくただ眺める。吐き出されたそれはしばらく揺蕩って夜の海に溶けていった。
「ちゃんめいちゃん引っ越したんだって?」
「…らしい。」
明らかに歯切れが悪い返答にも言及しないということは、大方事の顛末を知ってるんだろうな。共通の友人なわけだし当たり前か。
ジリジリ、火種がフィルターまで達するともう一口吸い込んで灰皿にタバコを押し付ける。
「外野が言うのも変な話だけどさー。」
そうして不味そうな煙を吐き出す。
「お前らには後悔してほしくねえのよ、俺は。」
箱から1本揺すり出そうとして、やめていた。コンビニの灰皿には死骸のように吸殻が積み重なっていて、その中になるせの銘柄も何本か混ざっている。
こちらに向き直った男の、どこか物憂げな眼差しは初めて見るものだった。
「なにそれ、激励?」
「いんや?嫌がらせ。」
「誰へのよ。」
「ぜっってーー教えてやんね。」
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哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントとお祝いの言葉ありがとうございます!お褒めの言葉もとても嬉しいです…!番外編の方もがんばりますので、ぜひよろしくお願いします! (2022年8月27日 10時) (レス) id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
Mrs.ぱんぷきん(プロフ) - 完結おめでとうございます!素敵なお話にドキドキワクワクしまくりました!ぜひまた🐏ちゃんの小説をお願いします!!!Twitterもこれからも楽しく拝見させていただきます!本当にお疲れ様でした!!! (2022年8月26日 19時) (レス) id: 3c19ec381c (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - 涼風さん» コメントありがとうございます!あれって地域差によるものだったんですね…笑これからも自分のペースで頑張ります! (2022年8月11日 18時) (レス) @page30 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
涼風(プロフ) - ゴミステーションでもしや住んでる地域一緒なのでは…!?と思ってしまいました笑笑内容もとても面白いので、これからも更新楽しみにしています!!!!無理なく頑張ってください😚♡ (2022年8月11日 0時) (レス) @page28 id: d41656e1e9 (このIDを非表示/違反報告)
哀(プロフ) - Mrs.ぱんぷきんさん» コメントありがとうございます!少しでも楽しんで頂ければ嬉しいです。更新も自分ペースでボチボチ頑張ります! (2022年8月7日 20時) (レス) @page23 id: e8b342a20d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:哀 | 作成日時:2022年7月23日 10時