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「……え?」
どこかの王子様のような雰囲気の彼が、白磁色の手で私の手を優雅にとっている。
立派な白馬に乗った、キラキラの衣装を着た王子様……本当にそんな感じで、口の端をほんのり上げて微笑む彼はとても絵になっていた。
赤い瞳に喜色を詰め込み、喜びのあまりか猫のようなツリ目だった目にとろけるような甘さが宿る。
完璧超人であり、手の届かない位置にいたはずの先ほどの様子とは一変。
ぐっと距離を詰め、私をどこか愛でるような瞳でじっと見つめてきたのだ。
対して私は、何を言っているのか一つもわからずじまいで、ただ彼をキョトンと見るだけ。
「……やっぱり、覚えていませんか」
「お、覚えてない……って?」
私は彼と以前あったことでもあるというのだろうか。
こんなお金持ちのぼんぼんのお坊ちゃんで天才肌のスーパー完璧人間の、彼と?
身に覚えがない。
こんなにも端正な顔立ちのオーラが普通の人と180度異なるような人と会ったのなら覚えていてもいいはずなのに……。
と、思考を張り巡らせぐるぐると考え出したが、やはり彼の面影はどこにもなかった。
彼のあまりの大人びた仕草に忘れていたけれど、彼との歳の差は6歳差でこの顔を思い出そうとしても思い出せるわけはないのかもしれない。
けれど、となんとか記憶の片隅から彫り上げては思い出そうとしても、やはり赤髪の男の子の記憶はない。なんだか輪郭のぼんやりとした記憶が浮上しては沈むだけだ。
記憶力は悪くない方だと思っていたが、訂正する必要があるかもしれない。数年前の記憶を探そうとしてもあまりはっきりと思い出せないのだから。忘却することが当たり前の人間にとっては自然のことかもしれないが。
「ええと……ごめんなさい。
私がすっかり忘れているのか……人違いかと。」
「……そうですか。
結構前のことですし、覚えていなくても無理はないですよ」
にこりとまた優雅に笑う彼の表情には、はっきりと悲しさが表れていた。
可能性として「人違い」であることは0だと思っているらしい。完全に私が忘れているという方の選択肢をとった彼は、私の手を握る手にちょっとだけ力を込めた。
「……あの、兄が待っていますので」
「あぁ、そうでしたね」
口ではそういうものの、手の力は変わっていない。
口元は笑っているのに、どこか寂し気な表情。
諦めきれない、とそう訴えているように。
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堕天使ルイ - なんか、ちょっと内容が分からなくなってきました。自分の理解能力の無さでw 続き楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。 (2018年3月20日 21時) (レス) id: 3344530ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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