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兄は珍しく顔に怒りを露わにしながら、言い切った。
「思い出した」と、赤司君のことを「あの時の少年」だ、と。
私には兄の言葉が何一つ理解できない。それどころではない。どうして兄が迷いもなくこの場に来たのか、どうして兄が憎しみの感情を赤司君に向けているのか、全てが分からなかった。
正直、色々なことが起こりすぎて混乱しているのだ。
気分を落ち着かせるはずのサンダルウッドの香りは、その効果をこれっぽっちも発揮せず、私を混乱の渦に招いていく。
この場で息をするのも忘れて、呆けてしまうのも無理はなかった。
「……黒子先生、今はそのような話をする場ではないかと。」
赤司君が優雅に笑う。一人だけ別の世界にいるかのように焦りを感じていない。
赤司君の真逆の感情をぶつける兄は、肩を上下させながら、厳しい顔で首を横に振った。
そこには、いつも私に向ける優しい甘さはなかった。
「君は、僕の出版社にまで話をつけて……Aと会う機会を作り出していたのでしょう?」
「否定はしません。」
そうにこやかに笑う、赤司君。
対峙する兄は威嚇をするように赤司君をにらみつけ、私の腕をとった。
ぐん、と体をひかれる。兄らしくない少々乱暴な扱いに、私は目を見張った。兄が赤司君に恐怖心を抱き、強い警戒をしているのは明らかだ。
「……天才中学生、赤司征十郎ともあろう人が、まさか彼女を探すためにそこまで躍起になっているとは思っていませんでした。」
「それは、俺も言えますよ。若手ながらベストセラー作家である黒子先生が、ここまで妹君にご執心とは……ね。」
ふっと笑う、その姿はやはり最初に出会った時と同じように完璧すぎる笑みで。
どこかの童話から出てきたような、白馬に乗った王子様を彷彿させた。
しかし、その細くなった赤い瞳が徐々に姿を元に戻していくと、そうではないことがわかる。
赤司君は笑っているようで、ひとつも笑っていなかった。
瞳は鋭い怒りを訴え、底冷えするような冷たさがその燃えるような瞳に宿っている。炎のような色なのに、その炎は人を凍らせそうなほどに冷たかった。
兄の手に力が宿り、私の腕にその細い指が食い込む。絶対に手放さない。手放したくない。ずっと大事にしていたおもちゃを奪われそうな子供のように、ぎゅっと。
「黒子テツヤ」
赤司君が、兄の名を強く、吐き出すように言った。
その言葉には帝王のような威圧感があった。
「彼女を、返せ。」
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堕天使ルイ - なんか、ちょっと内容が分からなくなってきました。自分の理解能力の無さでw 続き楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。 (2018年3月20日 21時) (レス) id: 3344530ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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