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結局あの後、「嫌です」とだけ言い切った兄はそれ以上は何も言わなかった。
そのまま歩き出してしまった兄を追いかけて帰ってきたのが昨日の記憶だ。
帰ってきて早々部屋にこもって「僕が出てくるまでは放っておいてください」と言った兄を見て、恐らく取材したことを元に小説のプロットでも書き始めるのだろうと思っていたが、どうやら的は外れたらしい。
仏頂面だった昨日に比べ、何故か晴れ渡る青空の下にいるかのような___私以外はきっと判別出来ない___顔をして、コーヒーを飲んでいた。
その脇には当然の如くゆで卵が添えられて。
「あ、おはようございます、A」
「え、……あ、うん。おはよう、兄さん」
テレビにはおは朝が流れており、時間的におは朝占いの時間だった。
"今日の一位は、水瓶座のあなた!"
「あ、僕一位ですね」
「そう、だね。……あの、兄さ」
「A」
私が兄を呼ぶより早く、兄が私の名前を呼んだ。
「昨日は、すみません。僕、なんか……頭に血が上っちゃって」
「い、いや、兄さんは悪くないから……私も嘘ついたのは、ごめんなさい。私たちは兄妹、だもんね」
「Aは僕の、……僕の可愛い妹です」
ひどく"僕の"を強調する兄。
私は一瞬訂正しかけるも、慌ててその口を変えて違う言葉を紡ぎ出す。
「もちろん。兄さんも、私の自慢の兄さんだよ」
「それは光栄です。……あ、Aの分のゆで卵もありますよ、シンクの鍋の中です」
「ありがとう、兄さ……って兄さん!?卵いっぱいだけど!」
「僕、ゆで卵はバニラシェイクの次に大好きなので」
「だからって、なんで残ってる卵全部ゆで卵にしたの……?」
「……Aも好きですよね?」
「好きだけどね?……今日の晩ご飯は卵づくしだからね。あと私今日大学行くから、兄さんまだ書き始めないなら卵、買ってきて」
コーヒーを優雅に飲んでいた兄は、「全然一位じゃないです……」と呟いた。
冷蔵庫は私の管理下で、卵がないのは由々しき事態だと言うのをちゃんと兄に教えるべきだと頭の片隅に記憶する。
「部屋に籠るなら私が帰りに買うけど……兄さん、どうするの?」
「籠ります」
「分かった。執筆、頑張ってね」
それから鍋の中からひとつゆで卵を取り出して食べ、歯磨き顔洗いと身なりを整えて「行ってきます!」と家を飛び出した。
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堕天使ルイ - なんか、ちょっと内容が分からなくなってきました。自分の理解能力の無さでw 続き楽しみにしてます。更新頑張ってください。応援してます。 (2018年3月20日 21時) (レス) id: 3344530ea6 (このIDを非表示/違反報告)
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