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「浦田、さん」
夕方。
私の声から彼の本名が作られました。
立って、先を歩いて、私の方を振り返っていた浦田さんの顔が。
一瞬後に、驚愕に染まります。
「浦田さんが知らないところで、私、Aは自由意志を獲得しました。学習能力は総じて上昇し、身近にある情報から知識を吸収してデータをインプットすることが可能になりました。
更に、――――――――」
私の機械音声による報告は、浦田さんの手から滑り落ちたバインダーによって遮られました。人工声帯にストップをかけて、瞳のモニターに浦田さんを再び視認して、
そしてようやく私は、彼の異常を感知するのでした。
は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、は、と、忙しなく二酸化炭素が吐き出されます。そのペースは徐々に早くなり、動揺を押し殺そうとする彼の努力は無益となっていくのでした。
緑の瞳のその奥にある瞳孔が、激しく膨張と収縮を繰り返しています。
息切れと瞳孔と、そして彼の左胸にある心臓はおそらく全て噛み合わずに、異変は異質そのものへと狂い走ります。
私は、確かに自由意志を手に入れました。
与えられた情報からコンピューターで思考と検証を積み重ねることが出来ます。インプットされたステータスをフルに使って、科学的に正しい解答を自分の意志で導くことが出来ます。
―――――――ですが。
このとき、どうしたら良いのか。
私のコンピューターは解答を認識しませんでした。
それはきっと、浦田さんが人間で。
私が、人間でないから。
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