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文句を言う彼を適当にあしらいながら薬を飲ませて(その後残りのゼリーをぱくぱく食べてた。一人で食べれるじゃん!)、冷却シートを「これ貼って」と差し出せば、また「Aが貼ってや」と言う。
…なんなんだ、ホント。
自然にまた彼に近寄る形になり、恐る恐る、彼のおでこの髪をかき上げた。
熱くて湿った感覚に、なんだか鼓動が速くなる。
すると、目の前の彼が、フッと笑った。
「?」
そして、彼の顔が、近づいてきて、…
一瞬、何が起こったのか分からなかった。
火花が飛び散るようにぶつかった睫毛。
湿った唇は、ほんのりゼリーの味。
目の前には、妖艶に微笑む彼。
「可愛えね、A」
「………!!!」
その一言で我にかえった。
キスされたんだ…!
「な、なんで…」
「さて、なんでやろなー…?」
悪戯が成功したかのように、八重歯を覗かせて無邪気に笑う彼。
徐々に熱を帯びていく身体、上がる心拍数。
今起こった事に信じられず、
「か…帰る!!!!」
カバンを引っ掴んで、彼の部屋を飛び出した。
***
熱い。身体中が熱い。
「…きっと、経口感染だ」
彼の熱が移ったに違いない。
決して、好きだからとか、そういう感じでは…!
慌てて出てきたけど、今何時なんだろ…
「…あ、スマホ忘れた…」
彼の部屋に置いてきてしまったらしい。
間抜けすぎる自分にため息をつきながら、また彼の家に向かった。
***
そろりと玄関のドアを開ける。
鍵はまだ開いていた。
火照る身体を引きずりながら廊下をこっそり進んで、寝室をドアの隙間から覗き込む、と。
彼の話し声が聞こえた。
スマホに向かって何か言っている。
「そう、急に出て行ってもうてさ…」
確実に私のことを言っている。気まずい。
『大丈夫?私が行こうか?』
「んー、そうしてもらおうかなあ…」
(…どういうこと?)
電話の向こうは女の子みたいで。何故スピーカーで話しているのか。
ともかく、女の子と話している、ようだ。
なんなの。
私が居なくなったら直ぐに他の女の子に来てもらうんだ。それで看病させるんだ。
…別に、私じゃなくても、いいんじゃない…!
どうにも我慢できなくて、ドアを思いっきり開いて叫んだ。
「…さいってい!!!」
後ろから引き留める声が聞こえた気がしたけど知らん。
部屋の隅に落っこちていた自分のスマホを掴んで、今度こそ、自分の家に走って帰った。
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