窮鼠なれど王を噛めーその28 ページ22
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振り返って見えたのは、月明かりに照らされて揺れ光るアイスブルーの瞳だった。
それを見て思い出すのは昼間の場面。
身勝手にも跡部様の言葉に傷付いてその場を逃げたと言うのに、その後にまた会った時は噛みつき歯向かって。
それを考えると、謝罪の言葉すら軽く感じてどうしていいか分からなかった。
戸惑う俺に向かって、跡部様が一歩踏み出す。
「…おい、」
跡部様が俺の目の前に立った時、俺は咄嗟に左胸に手を当て片膝をついて跪いたのだ。
「っ、ー……」
何か、言わなければ。
そう思っても俺の口からうまく言葉は出ず、開いてはまた閉じる。
申し訳ありません、と言えばいいのだろうか。でもどこから謝れば?今日の事か?いや、謝るとするならばこの何年間と一度もご挨拶できなかった言葉からだろうか。もしくは「お父様とお母様を奪ってしまいすみません」だろうか。
ああ、このまま跡部様が罵ってくれたりしたなら謝罪の言葉はすんなり出るのだろうか。
そんなことを考えながらも言葉にできない俺に、跡部様の声がかかる。
「…顔を上げろ。姿勢を元に戻せ。」
「で、ですが」
「これは命令だ。」
命令、という言葉にピクリと反応する。そろりと手を地面につき、立ち上がる前の微妙な体制で跡部様の顔を伺う。
その顔は怒っていたりイラついていたり憎しみがこもっていたりする訳ではなかった。少し目を伏せただけの跡部様は、
「聞こえなかったのか?早くしろ。」
と、ただ言葉を続けた。
今度こそ俺は迷わず立ち上がり、身長差のある跡部様の顔を少し見上げるような形で見つめた。
「……今日の事は、すまなかったな。何より、お前の働きによって比嘉中含め大勢の奴らの練習に対する意欲もかなり前向きになるだろうな、感謝もしている。」
あの時のように頭を下げようとする跡部様に、俺は慌てて止めに入る。
「そんな、俺は…っ!」
言葉を続けようとすると目の前に跡部様の手が突き出され、パチンッと指を鳴らされる。
その硬い音に俺が口を噤んだのを見て、跡部様はニヤリと笑った。
「黙って、話を、聞け。」
(これって、夕食の時の俺の…)
副部長に習った拍手で食堂の音を黙らせたあれと同じだ。
手を口元に当てて、いたずらが成功したかのように愉快そうに軽く笑う跡部様。
「あの時のお前はかなりかっこよかったな。
…まぁ今話したいのはこんな事じゃねぇ。
これまでの事について、そろそろ話す必要があるだろうが。」
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木こりのコロポ(プロフ) - 日吉和菓子2円さん» コメントありがとうございます!これからもよろしくお願いします! (2018年4月30日 0時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
日吉和菓子2円 - ルドルフ組が可愛かったです! (2018年4月29日 22時) (レス) id: 9521c565b3 (このIDを非表示/違反報告)
木こりのコロポ(プロフ) - 第一部隊さん» コメントありがとうございます!ルドルフの中だと淳が好きなので、かなり淳との会話が多くなってしまったかなと思います…!お気に召して貰えたならなによりです! (2018年4月29日 19時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
第一部隊(プロフ) - ルドルフかわいかったです!家族設定面白い!ありがとうございました! (2018年4月29日 18時) (レス) id: 91bd124fa4 (このIDを非表示/違反報告)
木こりのコロポ(プロフ) - 暁月さん» ご指摘ありがとうございます!訂正しました! (2018年4月29日 13時) (レス) id: 43368e3037 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:木こりのコロポ | 作成日時:2018年4月14日 8時