Episode5 ページ8
「……えーっと、これはどういう?」
ひたすら広く、豪華すぎる部屋に私は1人ぽつんと取り残されていた。
あのあと紅炎さん(せめて呼び名だけはさん付けにすることにした)に色々と言ってはみたものの、私の言い分が通る訳もなく、私の部屋が用意されてしまった。
『協力してもらう弟を呼んでくるから待ってろ』と押し付けられたようなこの部屋で待たされているのだが、人が現れる気配がしない。
ただ、これから始まるであろう生活に少し期待をしている自分もいて。
こんな気持ちになったのは、何年ぶりだろうか。
ふと、あの頃が蘇る。
笑顔で溢れていたあの頃。
家族も、友達も、あの方も。
過去のことを思い出しそうになったところで、考えるのをやめた。
捨てたはずの過去にまだ縋っている自分がいることに気付き、呆れたように笑う。
「…どうして私が挨拶しに行かなくちゃいけないんですか。」
物思いに耽っていると、扉の向こうからとてつもなく嫌そうな声が聞こえてくる。
「うるさい。いいから行け。あの者を一番有効活用出来るのはお前なんだ。」
嫌がる声など一切気にせず、部屋の扉を開けたのは紅炎さんだった。
紅炎さんに引きずられるようにして連れてこられていたのは片目が前髪で隠れた、いかにも不健康そうな男性。
紅炎さんがさっき言ってた弟だろうか?
すると、その人はやる気のなさそうに自己紹介を始めた。
「煌帝国第二皇子…練紅明と申します。」
「私はA。ところで、私はこの国のためになにを協力すればいいの?というか、私まだこの国のこと、全然知らないんだけど。」
なにも知らないから協力もなにもできないんだよね。
私がこう言うと、紅炎さんは紅明さんを指して口を開いた。
「そのためのこいつだ。紅明からこの国の政策などを全て聞け。そしてお前も知っていることをこいつに話せ。」
はぁ…と紅明さんが面倒くさそうな態度を隠そうともせず溜息をつく。
さすが兄弟。
「兄上の命令なら…わかりました。ではA殿、お話させていただきます。」
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作者名:いぃら。 | 作成日時:2017年10月29日 0時