第21話 ページ21
病室の窓を開ける。
入ってくるのは少し肌寒い風。
けれど、換気しないと彼女も
息苦しくて堪らないだろう。
ベットで横たわる彼女の目は固く閉じられている。
半年たっても彼女は未だに目を覚まさない。
「いい加減、起きてくれよ。」
彼女から返答はない。思わず涙があふれた。
こんなはずじゃなかった。だってこの先もずっと
お前は隣に居るものだと思ってたから。
「頼むから。」
目を開けてくれ、声を聞かせてくれ。
お前の笑顔が見たいんだよ。
隣で笑うお前が、ずっと、ずっと前から。
「好きなんだよ……。」
心の底から信じることが出来ないなら
それまでいつまでだって待つし
俺は絶対、裏切ったりなんかしない。
だから、だから、頼むから。
ああ、くそ……それしか思いつかないのかよ、俺は。
「お前に、会いたいよ……。A。」
病室の外で佇む男が一人、彼の独り言を聞いていた。
「何やってんだよ、姉ちゃん。
はやく、帰ってこいっつーの。」
静かに涙を零したのだった。
*
あれ?君もこの記録を見ていたの?
これは記録だよ。あっちの世界のね。
ハッキングすれば、ある程度状況が
わかるだけのものだけどね。
こちらの世界とあちらの世界じゃ
時間の動き方が違うから、これは結構前のもの。
今頃、**の体はどうなってるんだろうね?
まあ、それはどうでもいいんだよ。
だってもう、あの体の中は空っぽだから。
彼女が本気で戻りたいって思わない限り
目覚めることなんてない。
もう少しはやく彼女に想いを伝えていれば
変わったのかもしれないね。
いや、裏切られる方が怖いと思って
逃げることもあるかな?
君だったらどうする?A。
え?私?……そうだな。
……申し訳ないけど、答えが出ないや。
そもそも、だ。私はこれを見てるから
答えられないという結論に至る。
けど彼女は、**は大事な友達の
彼の言葉を聞けないから、この世界を選んだ。
知っていたら変わったかだって?……どうだろうね。
たった一人の為に戻るのもちょっとな。
ん?まるで彼女の気持ちを
わかってるみたいに言うねって?
うーん、まあ似たもの同士だからね。**とは。
ま、この記録は夢とでも思っていてよ。
そうじゃないと、
"痛くて泣いちゃいそう"、だよね……。
じゃ、物語の続きでも見ようか。
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作者名:あゆさ | 作成日時:2020年12月2日 20時