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「では、お元気で。偶には文を寄越してください。」
「ああ、わかったよ。またお出で。息災で。」
あれから一悶着あり、多少の歓談をし、時間も時間となったので帰る事にした。兄も今晩から遠出の任務になるらしく、今から準備をするらしいし、私も日が沈む前に村へ着かなければならない。村の人間は特殊な歩き方で市井の人びとより大分速いとは言え、最近は日が落ちるのも早くなってきているので。
烏匠は小さい頃から父親に着いて回って仕事を覚える。烏の訓練のため、山で暫く過ごす事もあるし、村の周りの林の中でも道無き道を使う事も多い。父親は子どものために歩を緩めたり烏匠にとって楽な訓練をしたりはしない。烏匠にとって重要なのは烏を訓練する事だからだ。
だから、烏匠は十くらいの歳の頃には自然に呼吸を使えるようになっているらしい。流派や型なども無いし、刀も持たないけれど、呼吸は長距離の移動と良いとは言えない環境での訓練を余儀なくされる烏匠にとって大きな助けになる。そして、鬼殺隊士になりたい烏匠の子ども達にとっても助けである。小さい頃から染み付いてきた呼吸は、やはり少し質が違うのだと言う。何せ身に付き方が違う。兄は今まで傷の残る怪我もあったけれど、命に関わるような事は一度も無かった。
願わくはこのまま何事も無く引退まで奉職し、育手となれればいい。村に帰って烏匠をするのでもいい、それこそ結婚してくれればいい。悪鬼滅殺の志を掲げる事は、決して幸福の放棄ではない、己が命への諦念でもない。それに至るまで、人生に絶望した隊士様は多かろうけれど、それが凡てではない、きっと。私はそう思う。だって夜を越えれば朝日は私達に均しく降り注ぐのだから。独り戦う夜がどんなに辛くても、それを幾百千と越えた先にささやかな幸せを望む事は、誰しもに許されているはずだ。
「臨兄さん。」
「うん?」
「御武運を。」
「…うん。」
眉尻を下げて瞬いた兄は、大きく頷いた。兄の瞳は黒いけれど、奥に揺らめく炎を私は知っている。瞬きの度にそれが燃え盛ることを知っている。その光が消えない事を祈るばかりだ。
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あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時